サヨコ

１１

　紫の海外転勤の話は年明けじゃなく、１２月中旬からに変更になったようだ。会社では部長の口から説明があり、各自仕事の引継ぎをしておくようにとのことだった。

　紫がいなくなるからといって、新しく人員が補充されるわけでもなく。年末に向けて忙しくなる時期に予定外の仕事が増えた、と同僚たちはピリピリとしていた。その度に紫が申し訳なさそうに「ごめんなさい」と謝るのが気に食わなかった。別にこれは会社の都合であって、紫のせいじゃないのに。

　忙しいおかげで、余計なことを考えたりしなくて済んだのはよかった。紫と顔を合わせても気まずいとか言っている場合じゃなかったし。短い期間ではあったけど恋人だったというのに、紫がこんなにも仕事を抱えていたなんて知らなくて、ただただ驚かされるばかりだった。

　別れたから寂しいとか、感じる余裕もなかった。というより、紫のこともサヨコのことも考えてしまわないように、忙しくなるようにした。たとえば、引継ぎ先が決まらずに積まれていた仕事はできるだけ引き取るようにするとか。