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「石崎くんさ、最近雰囲気変わったよね」  俺の机の上に缶コーヒーを置きながら、上村課長が呟いた。自分ではわからなくて首を傾げると、柔らかい笑みを返される。どうやら悪い話ではないようだと安心した。 「前はさ、仕事こなしてるだけって印象だったけど、今はちゃんと真剣にやってる感じがする」 「……すみません」 「いや、褒めてるんだけど。これまでも別にミスしたりとかなかったし、サボってるわけでもなかったし、悪いってことはなかったよ。ただ、佐原さんが抜けちゃうと心配だなあって思ってたけど、今の石崎くんなら安心して任せられるよ」  人に褒められるのなんてすごく久しぶりで、どう反応すればよいのかわからなくて。頬が緩んでいる気がするから、きっと気色悪い顔しているんだろうなっていうのはわかる。誤魔化すように机の上の缶を手に取った。暖房で火照った頬に冷たい缶を押し当てると心地よい。 「ありがとうございます。もうちょっと頑張ってみます」 「うん。期待してるよ」 「あ、コーヒーもありがとうございました」 「頑張るのはいいけど、程々にな。俺はそろそろ帰るから」  ぽんと肩に手を置いて、上村課長はオフィスを後にした。その背中を見つめながら、缶のプルタブを起こすと、カシュっと小気味いい音がした。
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