11

4/14
前へ
/98ページ
次へ
 店を出ると寒さで体中の血管が引き締まるような感覚があった。吐き出した息は目の前を白く曇らせる。何気なく顔を上向けると、白くてまるい月が空から俺を見下ろしていた。  たぶん、満月だ。そう思うと同時に駆け出していた。行かなきゃいけないと思ったんだ。サヨコが待っている気がしたから。  地元の駅まで行くにはもう時間が遅くて、終電とタクシーを乗り継いだ。早く。早く。心の中でいくら唱えても、進むスピードは変わらない。窓の外の満月を覗き見ては、縮まらない距離にやきもきした。  中学校の近くで下ろしてもらうと、一目散に駆け、プールの裏のフェンスに向かう。季節は違えども、見慣れた風景を目の当たりにし、あの頃に戻ってきたように錯覚する。走ったからなのか、期待と不安で緊張しているのか、心臓が苦しいくらいに脈打っている。 「は……? 嘘だろ」  目的の場所だけが俺の記憶と様変わりしていた。冷静に考えれば、穴の開いたフェンスがそのまま残っているわけがない。全面金網のフェンスだったその場所は、下半分はコンクリートで固められ、上半分も丈夫そうな柵に変わっていたのだ。これでは中に入れそうにない。  今晩なら会えるかもしれないと期待していたのに。念のため柵の隙間から覗いてみたけれど、やっぱりサヨコらしき人影は見つけられなかった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加