11

5/14
前へ
/98ページ
次へ
 落胆しながらも、そりゃそうだよな、と自分を慰めながら立ち尽くす。変わらない景色の中で、唯一変わってしまったのが俺とサヨコの思い出の場所だなんて。  時刻を確認すると深夜1時を回っていた。終電でここまで来たんだから、もちろん帰れるわけがない。こんな時間に実家に押しかけるのも気が引ける。  立ち止まると途端に冬の冷たい空気が襲ってきた。鞄からマフラーと手袋を引っ張り出して身に着ける。まだ馴染まない手袋は、指先をより一層冷やしていく気がして、両手を擦り合わせた。  なんとなくこのまま諦めるのが惜しくて、サヨコが住んでいた家への道を歩く。サヨコがいなくなった後も、しばらくは信じられなくて。もしかしたら帰ってくるんじゃないかって思って、彼女の家に何度か足を運んでいた。すっかり道を覚えてしまっている。今も忘れていないことに、想いの大きさに、胸が締め付けられる。  静まりかえった夜の中で、微かにシャッター音が聞こえた。その音を辿って視線を向けると、通りの向こうに満月を写真に収めようとしている男がいた。スマートフォンのカメラではなかなか綺麗に写せそうにはないけれど。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加