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聞きたいことがたくさんありすぎて、何から話せばよいのかわからなくなる。だけど、サヨコが俺と同じ気持ちだったらいいなって。そう思った。
「サヨコ、俺嘘ついた」
サヨコは俺の顔を見つめ、ゆっくりと瞬きをした。
「俺、今日はサヨコに会いに来たんだ。どうしてかわからないけど、会える気がして」
「わたしも今日の月を見たら煌太に会いたくなったの」
「プール、入れなくなってたからもうだめかと思ったけど。よかった。ちゃんと会えて」
彼女の頬に触れる。頬もやっぱり冷たくて、俺に会うためにこの寒空の下で待っていてくれたのだろうかと都合の良いように考えてしまう。
「寒いし、あったかいとこ行こうか」
そう声をかけると、サヨコは体を強張らせた。大きな瞳がその真意を探るように俺の目を見返してくる。どうにも、これまでのやり取りのせいか、ホテルにでも誘っていると思われているような気がする。
「あー……えっと、駅前にファミレスあったよね? あったかい飲み物でも……どう?」
「そうね、行きましょう」
ファミレス、という単語に安心しきった顔をされ、少しだけ情けない気持ちになる。そういうことをしたくないというわけではないけれど、今はそれよりもサヨコの心が欲しい。まだ、結婚のことも母親のことも聞けていない。手遅れじゃなければいい。だけど、こうして会うことができたのだから、と期待してしまう気持ちを深呼吸で静める。
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