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春休みの図書室で、如月サナは人知れずに怯えていた。粉雪のような埃たちが、柔らかに床に舞い落ちる。
「あれ、如月さんも来てたんだ」
何も知らない柊瞬が、座って本を読むサナに話しかけた。彼は同じクラスで、サッカー部の男子だ。サナとは違って目立つ生徒である。
「うん。柊くんも?」
「春休みのお供を返しにね。隣、いいかな」
「うん」
空いているサナの右隣に瞬は座った。サナは震えを悟られまいと必死に平静を装う。
「柊くんは何借りたの?」
「これ」
「あ、これ私も読んだよ。泣けるよね」
「うん。まるでダムみたいな作品」
瞬は文庫本を挟むように持っていた。短めの前髪がまつ毛にかかっている。
「ダム?」
「うん。初めのうちは涙腺をせき止めておいて、最後の章で崩壊させてくる。そんな書き方をしてるよね、この作者って」
「わかる。すごく上手いなあって思う」
「へえ、やっぱり文芸部からみてもそう思うんだ」
「もちろんだよ。私にはこんな上手い文章書けないな……」
サナはもうこれで最後になるかもしれないと、瞬との会話を噛み締めていた。会話が途切れてしまうのも惜しい。
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