夏の終わりの花火

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夏の終わりの花火

【美夕】 「美沙子さん、それどういう事……?」 「あら、そのままの意味だけど」 八月下旬も数日が過ぎたある日の午後。 カランと言う音と共に、私の手元でラムネ瓶にビー玉が落ちる。 サイダーの弾ける泡がビー玉の周りに付き、透明な瓶と相まって見た目からも涼を感じる。 だが美沙子さんの発言に、ラムネ瓶を持ったままカズ君もユッコも固まっている。 アッキーはこうなる事を予想していたかのように、落ち着いた様子でラムネを飲んでいた。 「ユッコちゃんとカズ君もここに住むの。二人とも家に帰るのも辛いでしょう?昨日もカズ君のお父さんは深夜に暴れていたようだし、ユッコちゃんのおじい様も随分と大きな怒鳴り声をあげていらっしゃったし」 カズ君の父親は夜な夜な酒に溺れているようだし、この森に押しかけて来た時のカズ君への暴言を見ていたらそういう様子も安易に想像がつく。   ユッコは今日も腕に強い力で掴まれたような痣が出来ているし、自治会長であるお祖父さんは厳しい人だと聞いている。彼女が生き物を玩具にしてしまう程に生活の中にもストレスが溜まるようだから、二人が家に帰るのがつらいと言うのはわかる。 だがここに住むなんて、そんな簡単な事ではないはずだ。 「俺はまだしも、ユッコの祖父ちゃんは絶対探し回るよ。俺らが見つかったらアッキーまで見つかっちまうし」 ユッコも隣で不安そうな表情で頷く。 「家には帰りたくないからここに居られるなら嬉しいけれど、上手く行くのかな」 だが美沙子さんは案でもあるのか、変わらず余裕の表情だ。 「ここで家族として過ごすの。素敵じゃない?ずっと皆で一緒にいられるの。 ずっとよ。大丈夫、私が何とかしておくから。ね、そうしましょう。とりあえず今夜決行でいい?二人は夕方いつも通りに家に帰って、最低限の物を纏めて夜中に戻って来るの。後の事は私に任せて。んー、久しぶりに飲んだわ。冷たくて美味しい」 午前中に川で冷やしておいたラムネは丁度いい位の冷たさで、火照った体も内側からスカッとする。
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