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届かない言葉
「やだよっ、戻って来て!死んじゃうよぉ!」
出口の扉が轟音と共に焼け落ちる。燃え盛る炎の向こうで泣き叫ぶ顔が見え隠れする。
そんな彼女から目を背けるように、操縦かんを握る手に力を込めて正面の窓を真っ直ぐに見つめた。
朝焼けだ。真っ赤に染まる樹々と茜色の燃えるような空の境目がぼやける。
生きて。
それが最初で最期の願いだから。
うねりを上げる炎が四方から迫る。あの子の声が遠ざかる。崩れ落ちる体に途切れゆく意識の中、最後の言葉を呟いた。君には決して届かない言葉を。
夜のひまわり畑に行ったあと、考えたんだ。
もう言葉にしても叶わないけれど、せっかくだから言うよ。
僕、いつか運転手になりたい。
いつかみんなを。美夕を乗せてみたかったな。
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