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爽秋の軽やかな風が、緑の匂いを抱いてそよぐ。
水色の透き通った空に、紅い彼岸花が妖艶に揺れている。
森の裏手はあの頃と同じ畑ではあるが、アッキーと一緒に見たひまわり畑では無くなっている。
今では農家の人たちが出荷用の野菜を育てるようになり、夏になってもあの時と同じひまわりの群れを見ることは出来なくなっていた。
九月の軽やかな風が、隔たりの無い田畑を駆け抜け、私の髪をふわりと持ち上げた。
畑と畑の間にある、アッキーと一緒に寝転んだあぜ道に、同じように寝転ぶ。
泡立つようなイワシ雲が広がる。
畑の淵を囲うように群生した彼岸花ごと見上げていると、空の一部と化したように見える。
「彼岸花は天国の花なんだよ。アッキーも、カズ君も見てるかな」
返事の無い私の言葉は、秋空に霧散する。
ポケットからカズ君が私に見せようとしていた王冠と、アッキーがくれたビー玉を取り出して、空に掲げる。
太陽の光が王冠の淵に反射する。
虹色の模様が入ったビー玉は透明な部分に向こうの景色を映し出していて、秋の空に虹がかかっているようだ。
「ビー玉が空を丸ごと抱いてるみたい」
どこからか、赤トンボが二匹並んでやって来た。
「ナツアカネ、かな」
アッキーが時々虫の声を聴いては、その名前を教えてくれた。
もう戻る事の出来ない、あの夏の日々が遠く儚い記憶として私の心に温もりを落とす。
あの日々は確かにあった。私は独りじゃない、よね。
寝転ぶ私の上を、二匹のトンボは気持ちよさそうにすいすいと飛んでいた。
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