子喰い鬼の唄

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子喰い鬼の唄

【美夕】 「わぁ、またつぼみ付いてる」 柵越しに蕾を付けた朝顔に小さな歓声を上げる。咲き終わって枯れた蕾の下からは新しい種が膨らみ始めていた。 村の外れにある、一人暮らしの老女の家の庭に植えられている朝顔。 梅雨に入ってからぐんぐんと蔓を伸ばして成長するそれを、私はこの二か月以上もの間、こっそり見に来ている。 「ここには来ちゃいけないって教わらなかったのかい」 突然降って来たしゃがれた声に、尻餅をついた。 悲鳴が出そうになった口を咄嗟に抑える。眉間に皴を寄せ、恐ろしい顔をした藤色の着物姿の老女が垣根から覗き込んでいた。 「と、トワ子さん。ごめんなさい。その……」 「美夕だったかね。名前」 どうして名前を知ってるの?そう尋ねようかと思ったが、今すぐこの場から逃げたい。 恐る恐る頷き、そのまま手足を使って後ずさる。 そんな私の姿に、トワ子さんは口の端を吊り上げて鼻で笑った。 「村の連中に、気味の悪い婆さんの家には近寄るなって言われてるだろう。たかが朝顔の為に毎日来るなんて馬鹿じゃないかい」  気付かれてたんだ。 こっそり見に来ていたつもりだったのに、バレていないと思っていたのは自分だけだなんて本当に馬鹿だ。 何とか立ち上がり、枯葉を払おうとお尻に手を当てた時、手のひらにべっとりと泥が付いた。 昨夜まで停滞していた台風の大雨のせいで、地面が濡れていたのだ。 それを見ていたトワ子さんは、くるりと背を向けた。 「手、洗っていきなよ。ズボンもそんなに汚しちゃ、母ちゃんに叱られちまうだろう」 「いや、でも……」 「あんたもどうせ独りなんだろう。まぁ犬を連れてるだけ、私ほどじゃない か。でも、私のせいであんたに恨まれちゃ嫌だからね。ほら、早くおいで」 「ありがとう……ございます」 つかつかと歩くトワ子さんの背中に頭を下げ、小走りで着いて行った。
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