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「やべぇ、めっちゃ嬉しいわぁこれ。ありがとな、美夕」
パンツ一枚のカズ君が丸太ベンチに大の字に寝転がり、空にアルファロメオの王冠をかざす。
服を脱いだカズ君の左肩から背中にかけて薄青い痣が広がっていた。
今まで服に隠れていたせいで気付かなかったが、これこそが彼自身を苦しめているものなのだと思うと胸が痛い。
「アッキーの持ってたジュースの中にあっただけだから。でも、喜んでくれて嬉しい」
「そんなの集めてどうすんだかねぇ」
裏、表と嬉しそうにニヤニヤしながら見ているカズ君を横目に、ユッコがため息混じりに笑っていた。
あかね号の横に張ったロープに私たち三人の服がぱたぱたとはためいている。
ユッコは私が貸した服を着ているが、カズ君は「暑い」と言ってかれこれ二時間は裸で過ごしている。
「あら丁度良かった。今日はお料理が沢山あるのよ」
「美沙子さん!」
村長の家には親戚が集まっているらしく、料理が余ったらしい。
「あのお家の人は余ると捨てちゃうのよ。勿体ないから頂いて来たの。私の事、きっと食いしん坊だと思ってるかもしれないわね」
鶏肉の入った筑前煮や昆布巻き、鯖のみりん焼きにレンコンの金平、おにぎ
りも沢山ある。
これだけの物を捨ててしまうなんて、本当に勿体無いし信じられない。
「すげぇ!」
「こんなにいっぱいの余り物なんて、贅沢な人達ね」
ユッコとカズ君が大きなお弁当箱を覗き込む。アッキーもその後ろから「美味しそう」とぽつりと呟いた。
コタロウはと言えば、今にも千切れんばかりに尻尾を左右に振りまくり、口の端からはよだれが垂れている。
「コタロウも我慢できないんじゃないかと思って、こっちのおにぎりはお塩を使わないで作って来たの。食べ過ぎちゃいけないけど、コタロウも皆で食べたいわよね」
ドラム缶テーブルに置いたお弁当を囲み、私たちは貪るように、でもしっかりと味わいながら食べた。
どれも味が染みて、だがしょっぱいわけでもない。
暫く全員が言葉を発するのも忘れて食べていた。
美沙子さんはそんな私たちを、まるで母親のように優しい目をして見守っていた。
「美沙子さん、ありがとう」
ユッコに続いて、私とアッキーも、おにぎりを頬張るカズ君も口々に礼を言った。
「喜んでくれて良かった。あなた達だけが、私の生き甲斐なのよ」
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