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「何でもかんでも耳に入れちゃあ疲れちゃうでしょ?聞いて気持ちの良い事だけを聞くようにしてるの。それに、私は自分の耳より目と心を信じるのよぉ。ほぅら、この僕だって優しい顔してる。大きくなったらもっといい男になるよ。色んな人がいるからねぇ。悪い言葉に惑わされちゃいけないよ」
隣に座っていたアッキーの頬に、皮膚が垂れた細い手を添えて「ねぇ?」と微笑む。
「痣があるから病気だなんて誰が決めたのよねぇ。ユッコちゃんの父ちゃんだって、礼儀正しくて愛想の良い青年だったよぅ。小さいあの子を抱いてよく散歩がてらお菓子を買いに来てねぇ。あんな事故があって本当に可哀想で見ていられなかったけど、美沙子ちゃんが一緒にお菓子を買いに来るようになってねぇ。それからは少しづつ元気になったみたいで安心したもんだよぉ。あの子も貰われ子で苦労しただろうから、ユッコちゃんにも優しくてねぇ。いつの間にか姉妹みたいに、店の前のベンチで二人並んでリリアンをして遊んだりしていたよ」
貰われ子?村長の家の使用人と聞いていたが違うのだろうか。
「そう言えば今日は祭りだろう?行かないのかい?」
「あ!」
壁の振り子時計は六時三十分を指していた。
今まさにこの時間に津鉾神社で待ち合わせをしていたのだ。
「ミツ婆ちゃん、僕しばらくここに居てもいい?」
アッキーは祭りには行けない。
私も行くつもりは無かったが、カズ君とユッコがせっかくだからと誘ってくれたのだ。
「もちろんだよぉ。年寄りの一人暮らしだから大歓迎さ」
ミツ婆ちゃんは張り切って台所に立つと、菓子器にいっぱいの煎餅を持って来た。
「もう少ししてから帰るよ」
アッキーはそう言って、ミツ婆ちゃんが持って来た煎餅にかじりついていた。
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