津鉾祭りの夜

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「そういえばカズ君、切符探してくれてたんでしょ。ありがと」 カズ君はイカ焼きを喉に詰まらせそうになって激しくむせる。 本人はユッコには隠しておくつもりだったのだろう。 「ごめんね、私が喋っちゃって……」 「お、おう。まぁ、見つからなかったけどさ」 バツが悪そうにはにかむカズ君に、ユッコがくすりと笑った。 「もう良いの。いつまでもお父さんの影にすがってちゃ駄目だって事かもしれないし。今は皆がいるから」 その時、スピーカーでやぐらの周りに集まるようアナウンスする声が聞こえてきた。 「お、盆踊りが始まるな」 やぐらの周りに集まり始める人達。大人や子供の楽し気な声が、いつもは静かな津鉾神社の森に響く。  ユッコとカズ君とアッキーも、あの人達みたいに普通にお祭りを楽しめたら良いのにな。   陽気で軽快な音楽が流れる。屋台に散らばっていた人たちが、一斉にやぐらの前に集まり始めた。 アッキーは基地に戻っているだろうか。もし戻っていたら、この音楽を聞いているのだろうか。 楽し気な祭りの音。食欲をそそる匂い。 そんな事を想像しては、あかね号で独り待つ彼の元に行きたいと、一様に踊る人々の輪を眺めていた。
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