夏の終わりの花火

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私も一番手前にあった花火に火を点ける。 一気に噴き出したそれは黄金色をしていて、植物のすすきのような、流れる滝のようにも見える花火だった。 「綺麗」 思わず笑みが零れた私が呟くと、隣で見ていたカズ君が「だろ?」と得意気な笑顔を見せた。 アッキーも色がどんどんと変わる花火を楽しそうに見つめる。 カズ君は「すげぇすげぇ」とはしゃいでいた。 きっとカズ君はこうして皆で笑っていたかったのだろう。 彼にとってもまたここが唯一の居場所なのだ。生まれる場所は選べない。 自らの境遇に逆らう術も無い彼らが、自分たちで築いた場所。 私は家に居場所が無い事を嘆き、村人からも余所者だからと冷たい目を向けられる事に対して自分は努力もせず、ただ嘆いていた。 村の人たちを睨み返すしかせず、悪意のある人の言葉だけを耳に入れて、気に掛けてくれる人の言葉を無視し続けていた。 ユッコの花火を前に、舌を出して笑ったような表情のコタロウ。 花火の光のせいか、コタロウのまん丸の瞳はきらきらと輝いているように見えた。 目の前の事を全力で楽しむ。自分の居場所は自分で作る。 そんな事を彼らに教わったような気がする。 パチパチと細く柔らかい火花を散らす線香花火。 隣のアッキーの線香花火が、ジジッと玉を成し、次第に膨らんで再びバチッと弾けるような火花を散らし始めた。 腕を固定したまま見つめるアッキーの横顔。 早々に火の球がぽとりと落ちて「あーっ」とカズ君が動いた振動で、ユッコの線香花火も球が落ちてしまった。 肩を落とすカズ君を睨みつけるユッコ。尻尾をべたんべたんと嬉しそうに地面に叩きつけるコタロウ。  大事な事に気付けただけ、この時代に来た意味はあったんだ。   夏の終わりの夜。 自分の時代に戻れたら、私も変わりたい。 何故かふと、村はずれに住むあの三島トワ子さんの顔が頭を過った。
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