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トワ子さんと少し離れて村を歩く。
彼女の言う通りユッコならば別にもう怖くも無いし並んで歩いても良いのにと言ったが、不気味婆さんと一緒に仲良く歩いてたら何言われるかわからないよと断られた。
幸い、夕飯時というのと、人通りの少ない道を抜けながら来たお陰で誰にも会わずにトワ子さんの家まで来ることが出来た。
庭の朝顔はすっかりしぼみ、明日咲くつぼみが膨らんでいる。
陽も落ちて薄暗くなってきた縁側に座っていると、美味しそうなカルピスを二つ手にして戻って来た。
ひとしきり泣いてようやく落ち着いた私は、カルピスに口をつける。
爽やかなすっきりとした甘さが喉を伝う。
冷たいカルピスが乾いていた喉をころころと流れ落ちていくのがわかる。
コタロウは小さな皿に入れて貰った水をがむしゃらに飲んでいた。
「あの火事の時、基地の向こうに美沙子さんを見たの。でも私たちを助けるでもなく立ち去った。もしかしてあの火は――」
「違うよ」
私の確信を持った言葉を遮る。
「美沙子さん自身は火は点けてない。ただあの人は……」
そこで言葉に詰まる。年老いて皺だらけの手で、目の淵を拭った。
「あの人は、私の祖父に火を放つように仕向けた。美沙子さんが鬼だったんだよ」
私は言葉が出なかった。
ただ驚く事も悲しむことも無かったのは、もしかしたら美沙子さんならあり得るんじゃないかと、心のどこかで思っていたからかもしれない。
トワ子さんはそんな私の背中をそっとさすって、言葉を続けた。
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