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「森に私を探しに来た祖父は基地の場所まで見付けて灯りが見えたって。その時に背後から鬼に襲われた。一命を取り留めた祖父に美沙子さんは、私が鬼と一緒に居ると吹き込んだんだよ」
美沙子さんはあんなに家族家族と言っていたのに、どうしてそんな事をしたのか。
毎日食事まで届けていたアッキーを巻き込む必要があったのか。
到底理解できない。
「美沙子さんは村長の養女でね。十三歳までずっと独りだったんだ。だが彼女を引き取った後、夫婦に子供が出来て彼女は居場所を失った。それどころか子供たちの世話や家事もさせられ、扱いも酷くなり、食事も皆よりずっと少ない量しか貰えなくてね。あの人はそんな自分の僅かな食事をアッキーに届けていたの。足りない時はこっそり食べ物を持ち出して、それがバレる度に酷く叱られていたんだよ」
美沙子さんの境遇は私と似ていた。
と言っても食事は困らない程には食べてられているだけ、彼女から見たら幸せなのかもしれない。
美沙子さんは家族の愛情に飢えていたのだろうか。
「あの頃はどれだけ怖がらせても、森のどこかで生きている噂のあったアッキーや鬼の正体を暴こうとする人間が後を絶たなかった。あかね号の亡霊や鬼に怖がりながらも、興味本位でうろつく子供がいたんだよ。もちろん、見つかったらアッキーは森から引きずり出される。美沙子さんにとっては家族だったから、あの環境を壊されたくなかったんだろうね。大切なものを、自ら壊すなんて悲しい事だよ」
そこまで言って私たちの間に沈黙が流れた。
悲しい。まとめてみんな壊すために、カズ君たちまでもあの森に閉じ込めようとしていたという事だ。
「美沙子さんは、あの火事の後どうなったの?」
トワ子さんはゆっくりと首を振る。カルピスを傾ける彼女の手元で、氷がカランと涼やかな音を奏でた。
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