秋の香りは少し切ない

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私が小学生だったときの話。 私には幼馴染の男の子がいて、登下校はいつも一緒だった。 通学路には秋になると金木犀が咲く。 「なんか、このオレンジの花、いい匂いしない??」 と私が言うと、 「これ、金木犀って言うんだよ。」 と、彼が教えてくれた。 どうやら、彼の家の近くにもあるらしい。 私はこの香りが欲しくてたまらなかったけれど、怒られそうだし、とるのはやめた。 それから毎日、そこを通るのが楽しみだった。 少し寒さを感じた頃、彼が紙を持って家にやってきた。 白い紙を折りたたんだ、小さな封筒だった。 「これあげるよ。開けてみて。」 そういわれ、小さな封筒をあけると、金木犀の香りがした。 「落ちてた金木犀を拾って、匂い袋をつくった。」 ありがとうを言うまもなく、彼は帰っていった。 わざわざ、日が暮れてから来たのは、彼なりの照れ隠しなのかもしれない。 私も、その方が良かった。 「ねぇ、金木犀の花言葉知ってる?」 「ん?知らん。いきなり何の話だよ。」 あれから、10年。 彼は、あの時のことを覚えていないようだった。 金木犀の花言葉はね、 『初恋』
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