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終章
『ご搭乗いただきましてありがとうございました。当機はただいま……』
あれから5年経った春。就職が決まったは、とある街にある空港へと向かう飛行機に乗っていた。
首都圏では様々な出会いがあったが、そう簡単に「玉の輿」になんて出会えるはずもなく。
しかも大不況で就職先が見つからず、やっと決まったところは、偶然だろうか、5年前に彼と別れたあの街の会社だったので、当然そこに戻ることになった。
しかし夢をあきらめたわけではない。この手に必ず理想の幸せをつかむと覚悟を決めて、飛行機を降りた。
到着ロビーに向かうと、懐かしい顔が出迎えてくれた。
あの彼だ。高校を卒業してすぐに就職したらしい。
毎年年賀状のやり取りぐらいだったが、近況は知っていた。
この街に帰ることを伝えると、空港に出迎えてくれることになったのだ。
「久しぶりね」
「うん、そうだね……」
しばらく見ないうちにしっかりと成長した彼を見ると、ちょっとせつなくなった。
「大きくなったんだね」
「お姉さんもきれいになったね」
「ま。お世辞がうまいんだから」
あの時は全く感じなかったが、彼から「男」を感じた。
「お姉さん、これ……」
彼は少し色あせたしおりを見せた。
あの時渡したアサガオのしおり。持ってたんだ。
「あの後、なんでこの花なのかなと思って花言葉を調べてみたんだ、そしたら……『固い絆』って意味だってわかって。だからもう一度出会えると思ったよ」
え……!? あわててスマホで調べると、確かにそっちの意味もあった。さらにもうひとつの花言葉も書かれている。
それを信じて、待っててくれたってこと? しかし私には夢がある。
「約束、覚えてますよね?」
私の夢……
しかし彼はまるで追い詰めるかのような目で私を見ている。
「忘れちゃったんですか?」
私の夢……、ザ・グッバイ。
「わかった。私の負けね」
覚悟を決めた私は、彼に近づいて、うなづきながら言った。
「お付き合い、してもいいよ。でもその前に一つ聞きたいな。あなた、女の子とお付き合いしたことはある?」
特段そんなことは聞いていなかったが、改めて聞いてみた。
「いや、無いよ。ずっとお姉さんを待ってたから」
このひとことに私はくらっと来てしまった。中学から高校卒業までの時期は多感で恋愛の機会も多いもの。それを私に捧げてくれるとは……
ごくんと息を飲み、私は意を決して
「わかったわ。ありがとう。それじゃあ、正式にキミの彼女になるわ。早速デートしましょうか」
彼は満面の笑みを浮かべて答えてくれた。私は、さっき調べたアサガオの、最後の花言葉を信じて、一歩を踏み出すことにした。
――その花言葉は「愛情」
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