序章

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序章

「ぼく、おねーさんのことが好きですっ!」  とある県の地方都市、どこにでもあるような住宅地、そこにある私の家の客間。  初夏の夕暮れ時、私はご近所に住んでいる13歳の男の子に、私は告白されてしまった。  私は17歳。彼とは幼なじみで姉弟のような関係だった。  けれど私は明日の朝早く、親の転勤で首都圏へ行かなければならないからだ。おそらく、ここには戻ってこないだろう。  数日前、彼にこのことを話すと、ものすごく寂しそうな顔をしていたのを覚えている。  そして今日、突然彼が家に訪ねてきた。たまたま両親が町内会主催の送別会に行っていて不在だったので客間に通したところ、件の告白となってしまった。  さて、どうしようか。  彼は真剣な目をして私を見ている。けれども子供の言うことだし、正直恋人としてお付き合いできるとは思えない。  それに私には夢がある。それは、何と言っても玉の輿。アラブの石油王とまでは言わないから、せめて年収1000万円以上の素敵な王子様と出会って、やさしくエスコートされるような結婚がしたい!  夢を見るぐらいは自由だし、これから首都圏に行けば、そういうチャンスがあるかも!  かと言ってむげにするのもこの子を傷つけてしまうし、どうしようか…… 「だめ、ですか……?」  泣きそうな目で見てくる彼を見て、私は「ちょっと考えさせて、ここで待っててくれる?」と言って、自室に向かった。  ずっと近所に居て、一人っ子の私にとっては弟のような存在だった彼を冷たくあしらうのもな……  しばらく考えた後、趣味で集めている押し花のしおりが目に留まった。  それを見た私は、そうだ! と思いつき、一つのしおりを持って彼のもとに戻った。 「お待たせ」  私は一つの押し花がほどこされたしおりを彼に渡した。 「これは、朝顔の花ですか?」 「そうよ。これを私だと思って大切にして、そして、もしも再会したときに君が大切にそれを持っていたなら、その時はおつきあいしましょう」  彼は満足そうに「うん」とうなずいてくれた。  あとは他愛もない会話を交わして彼と別れた。 「朝顔」の花言葉は「せつない恋」  おそらく何年かしたら、彼もその意味がわかるはず。ごめんね。そして、グッバイ。
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