妖精たちの午後

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「特別な日?」 「アネモネとの毎日が特別な日よ、けど、今日はもっと特別」 「なになに、何かあるの?」 「一緒に散歩したいって、言ってたわよね?」 「え、いいの? だっていっつも疲れるから嫌って」 「ひと眠りしたし、なんだか特別元気なの、だからつきあってあげる」 「やった、ありがとう!」  アネモネはジニアをギュッと抱きしめました。ジニアは抱き返さず、背中を軽くポンポン叩き、温もりを噛みしめました。歓喜に力んだ腕はまもなく解けます。そして「さあ、いこ?」と前に差し出されます。それを掴んで立てば夢の時間の始まりです。  アネモネに手を引かれ、前のめり気味について行くジニアは、子と遊ぶ母親のようです。実際、彼女は「お姉ちゃん」と呼ばれますが、母親同然の存在でした。  二人は妖精です。血の通った親はなく、大自然が二人を生み育てました。それでも魂と魂は繋がります。彼女たちの魂は何者だったのか、かつて繁栄した人間のように姉妹や親をなし、共に生きていくのです。誕生を見守り育ててきたジニアですから、その愛は母に近いことでしょう。ただ二人にとって愛を形容する言葉はナンセンスです。二人はいつもジニアとアネモネだからです。 「ジニア、遅いよ」 「私も若くないの、少し手加減してちょうだい」 「手加減はしてるもん、握る力はそんなに強くないでしょ」 「足加減して」 「……わかったよ、でも、特別な日が終わっちゃうよ、いっぱい歩きたい」 「そうね、終わっちゃうものね」  ジニアがアネモネの手を掴み先行します。 「今日は特別よ! 私の好きなものを一緒に見ましょう」 「わわっ、ちょっと足加減してよ」 「若いんだからついてきなさい?」 「幼いから無理」 「幼いなんて歳じゃないでしょう、ほら行くわよ、最初はヒトヨタケの楽園ね」  こうして母子を交代し、二人は林の中心部にやって来ました。一角に木々の生えない草地があり、ヒトヨタケが大発生する楽園となっています。 「すっごい!」  アネモネは茸のかさを突き、ぷるりと揺れるのを面白がりました。その後は輪になったヒトヨタケの群れの中心で踊ってみたり、そこへジニアも入れて一緒に踊り歌ったりしました。ついに二人は踊り疲れ輪の中心で寝転がりました。  笑いながら息を切らす二人は顔を見つめ合います。
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