妖精たちの午後

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「こんな場所があるなんて思わなかった!」 「いつも私の近くだものね。ここは私が生まれた時からずっとあるの、冬には枯れ草しかないけど、春になればこんなに賑やかなのよ」  アネモネは近くのキノコに手を伸ばし「へえ」と返事します。 「いなくなっちゃうのに戻って来るんだね」 「戻って来る、ね」 「えっ、アタシなんか悪いこと言った?」 「あらどうして?」 「急に悲しそうな顔するんだもん」 「年を取ると感情が薄れてくるのよ、それで悲しそうに見えるだけ」  納得できずアネモネは不満顔です。そして次の質問をぶつけようと思ったとき、二人の頭の方から何者かの気配がしました。  起き上がって見ると、それは彼女たちと同じ妖精でした。青黒い短めの銀髪に眠そうな目と小さな口、薄茶の衣をまとい、太ももまであるスリット入りのケープを羽織り、木の葉を束ねた本を抱え、キノコの群れの中に佇んでいます。 「ヒトヨタケね?」  少女は頷きます。 「私はジニア、この子はアネモネよ」  ヒトヨタケは二人を眺めると、本を開いてページをめくり始めました。動きがぴたりと止まります。すると両手で本を前に出し書かれている物を見せました。そこには薄い色の線のスケッチがありました。絵は二人にそっくりです。 「ええ、その絵の子は私よ」  それを聞いてヒトヨタケはニッコリします。 「あなたの前の子とも仲良くさせてもらったわ、あなたたちも本当にそっくりね。短い間だけど、よろしく」 「えっと、ヒトヨタケちゃん? アタシもよろしくね」  何度も大げさに頷いて、髪をぷるり揺らします。首の動きがおさまると、ケープの内から筆を取り出しました。柄はオークの枝で筆先はヒトヨタケの髪です。それを彼女がくわえると黒いインクが染み込みました。それで二人の手の甲に自分の顔を描き、それぞれギュッと抱きしめました。  そして姿勢を正し、もう一度二人の顔を見てニッコリ笑うと去って行きました。 「あの子、かわいかったね」 「ヒトヨタケはいつもかわいいわ」 「でもアタシの方がかわいいでしょ?」  アネモネがジニアの腕に抱き付き、上目遣いでうったえます。 「どうかしら?」
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