妖精たちの午後

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「そうだね、自分でかわいいとか言うのってどうかと思う」 「自分で言うのね」  軽い冗談を交わし顔に温もりが宿ります。それでもアネモネの内では、小さな澄んだ氷が冷気を放っていました。 「ところで前の子ってなあに?」  純粋無垢の瞳でジニアに問います。 「前の子ってあの子の?」 「うん、たぶん」 「見た目も性格もまったく同じ、でもあの子じゃないの。だから前の子」 「前の子はどこに行ったの?」  ほんのりかすんだ虹彩が潤いを帯びます。「そうねえ」と唸って青空の果てを望み、微かに唇が動きますが、あふれたのは言葉にならない想いだけです。潤いは悲しみだけのせいではありません。そこには確かに愛のような物が見え隠れしていました。アネモネにはそれが過去を懐かしむように見えました。また今の自分を見ていないジニアに、少し不満を抱きました。 「わからない。ヒトヨタケはたった一回の春夏秋しか知ることができないの。冷たく乾いた風が吹けば、溶けていなくなる。夜の星になってるらしいわ」 「へえ、なんか素敵だね」 「ええ、でも星に手は届かないの」 「届くかもよ」 「いつかは届くのかもね。そうだ、アネモネは星のこと知りたい?」 「知りたい知りたい!」  ひとつまみの不満は喜びにふりかけるスパイスです。爽やかに香りは過ぎ去って、もとの無邪気な顔が戻りました。それにはジニアも微笑まし気です。 「ふふっ、じゃあオークのところに行きましょう。彼女は星でも何でも知ってるわ」 「ホントに何でも?」 「もしかしたらね」  二人指を絡ませて、しっかりとした足つきで、林のさらに中心へと入っていきます。次第に深くなる林床の闇は、古にも人の手が入らなかった新緑の森ゆえです。それでも二人が迷わず風と木々の隙間を縫うのは、花の名を宿した妖精ゆえ、そこにあって然る草花同然だからです。  妖精の足音が向かう先には、オークの大樹がございます。我よ我よと伸びる若木と、今にも倒れ座を譲らんとする老木で溢れる中心部、老いてもなお若き大樹の座を狙う者はおりません。物言わぬ木々も畏れ崇拝するのです。それも忘れられた過去を多く記憶しているからでした。  少女たちの視界がパッと明るくなります。そこはもう大樹の裾元です。葉に映る光が闇を許さず、風すら口をつぐみ、死のような静寂があるだけです。温かな木漏れ日が、うねる幹の滑らかな樹皮を照らします。まわりに生える老木たちは身を苔におおわれていました。でも彼女には苔すら触れられないのでした。
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