妖精たちの午後

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「オーク、久しぶりね」  ジニアに応えるよう、地から何本もの根が伸びて結ばれ、人の形になりました。乙女の肌は樹皮のように滑らかで温かみがあれど硬く、衣は裾が大きく広がりドレスのようです。目は鮮やかな紫水晶の輝きを湛えます。深緑の長い髪に木の葉の冠を戴き、まさにこの地における唯一無二の長です。 「ジニア、随分と老けたな」 「あなたほどでは」 「我は永遠の少女だ」 「お互い様よ」  老いた者たちは静かに笑いました。それを眺める若き一輪の、賢者への期待と少しの不安に染まる目が、二者を行き来します。するとすぐにジニアと目が合います。彼女はアネモネの目に微笑みで答えオークに向き直りました。 「それで、今日はこの子が星のことを知りたいって言うから来たのだけれど」  オークはアネモネの顔を見て、喉の奥から「ほぉ」と息を漏らしました。 「なるほど。君は、アネモネだな」 「はいっ、なんでアタシのことをご存じなんでしょうか」 「かしこまらずとも良い。楽園のヒトヨタケには会ったな?」 「うん、でもどうしてわかるの?」 「においだ。あの子と同じヒトヨタケという者は多くいる。そして同じ名を冠する者は、髪色が違うこともあるが、同じ姿で同じ運命をたどる。それはジニアもアネモネも」 「へえ、何か不思議だね。ちょっと他のアネモネに会ってみたいかも」 「いつかは会えるかもしれない」 「でも私は他の私に会ったことないわ」 「我も同様だ。タンポポという者曰く、この地にはこの我が、遠方の森にはまた別のオークがいるという」  それを聞きアネモネはオークの体を見つめて唇を軽く結びます。考え事のお供は乙女の肌です。薄褐色の胸元には、花の模様が二輪彫られていました。一輪は大きな花弁、もう一輪は小さな花弁がたくさんありますがところどころ花弁がなく未完成でした。 「他のアタシとジニアも仲いいのかな」  ジニアは顔に小さな驚きを浮かべました。ですがそのこわばりも、一瞬にして日を透く目に解けてしまいます。そこでまたアネモネの嫌いな悲しい微笑みを見せるのでした。そして答えます。 「仲良しでしょうね」  微笑みにオークが応えます。 「ジニア、歳だからといって悲観するな」 「悲観してないわ」
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