469人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
「…いえ、すみません。
好きな芸能人に似てたんで、本人かと思ってびっくりしちゃって」
「え、そんなに!?
誰だろ、なんて人っ?」
「いえもう引退してるし、絶対知らないマイナーな人なんでっ」
とっさについた嘘に突っ込まれ、慌てて誤魔化す。
そう、風人は4年前…
階段から落ちるあたしをかばって、記憶喪失になったのだ。
だから、あたしの事は覚えてない。
それは、すごく切ない事だけど…
ほっとする事でもあって。
元気そうな風人に、相変わらずな風人に…
そして、ほんとはずっと会いたかった風人を前に…
泣きそうになるのを必死に我慢しながら、なんとか受付を終わらせた。
だけど見送った途端、ぼろりと涙がこぼれる。
「っっ…
あーも仕事仕事!」
いつお客様が来るかわからないから、今は泣くわけにはいかない。
パンパン!と両頬に喝を入れて切り替えると、さっそく風人の洗濯物の処理を始めた。
すると。
さっきはそれどころじゃなくて、うわのそらで受け付けたから気付かなかったけど…
「お前もかい!」
Yシャツ11枚に思わず突っ込む。
まったく、風人らしいや…
そう思うとまた泣けてくる。
風人と出会ったのは、約6年前…
大学1年の夏休みだった。
最初のコメントを投稿しよう!