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高校受験に失敗して二次志望の高校へ進学した思い出。ガールフレンドと初々しいキスをした思い出。彼女をはらませてしまってアタフタする悪友をあざ笑った思い出。必死に勉強していくつもの大学を受験したもののことごとく落ちて泣いた思い出。一年浪人して入った大学で彼女ができて初めてのセックスをした思い出。
あたしは舐めとった。
すべてだ。
ひとつだって、あんな女に残してやるものか。
長い時間をかけたような気がした。
でも、たぶん、現実の時間にすれば、ほんの十分程度だったろう。
思い出は、すべてあたしのなかへ取りこまれた。
和馬のなかのイメージ空間は、いまやのっぺりとした平原になっていた。
あたしはたっぷりと濡れた舌を引き抜き、腕をほどいた。
和馬の体が力を失って、安物のカーペットを敷いた床の上にくずれ落ちた。
虚ろな目が宙をさまよう。
思い出をすべてなくした人間は、空っぽの人形にすぎなくなる。
医者は若年性痴ほう症と診断するだろう。
あたしは手の甲で口をぬぐって、抜け殻になった男に背を向けた。
恋は、たったいま終わったのだ。
〈了〉
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