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第二話 それぞれの思い
その夜、ロージーはうなされていた。いつもの夢だ。人里から遠く離れた丘の森の隅の小屋で、父と母と三人仲睦まじく暮らしていた。母は畑の種を蒔き、まだ幼いロージーは、見よう見真似で母の手伝いをしていると、父に呼ばれた。
すらっと背の高い、美しい男が立っていた。黄金色の瞳と、青白い透き通るような肌と長く艶やかな白金の髪。その腰下から生える馬のような尾。そして何よりも、その男の身の周りは、霧のような細かい飛沫に包まれていた。ロージーは父の長い足にしがみつくと、父の大きな手がロージーの頭を抱いた。ロージーはにこりと微笑み、自分の尾を父の尾に絡み付けた。
「親愛の証、親愛の証」
大好きだった父に教わった、父の故郷での愛情表現。父は優しく微笑んでいるようだが、陽の光が眩しくて見えなかった。いつもだ。いつも父の顔だけが見えないのだ。大好きだった父の顔だけが思い出せない。母は娘を抱き上げる父を、慈しんで見ている。
「アリュースラ。私のアリュースラ……」
父は抱き上げてわたしの名を呼んだ。そこで辺りが暗くなった。突然積もる雪に覆われていた。怒声が聞こえ、次に母の悲鳴。
「魔物の母親は殺した!魔物の娘はあっちだ!」
母は数名の男共に農具で突き刺され、殺されていた。冷たい獣のような男共の目が、ロージーに向けられた。
「お母さん!」
ロージーは泣き叫んだ。どうして母を助けないのかと父に振り返ると、灰色の長い髪と牛のような尾を持つ、漆黒の肌の男が口元を厭らしく開いた。
「私のアリュースラ。神の子アリュースラ。大いなる神の器……」
幼いロージーは父の異様な姿に、顔を覆って怯えることしかできなかった。
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