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そして、本当のわたしは、自分で自分を暗い水の底へと沈めてしまったということを叫びたかった。水の精がわたしを笑う一番の理由を、わたしは知っている。わたしの恐れが、暗い水の底に沈められているということを。
「じゃあ、わたしもあなたのことを、ルーって呼んでもいい?」
ルーベルトはそんなロージーに、隠された恐れがあることも知っていた。それでも、自分とて、もう止まれないのだ。
あの時、ロージーを助けた時、ギリアムが言っていた意味が少し分かった気がした。ロージーの何かを今も隠しているが、いずれそれも知らされるだろうが、ロージーを守れる男になる、それに異存はない。例え何が待ち受けていようが、ずっと求めていたロージーを今更誰の手にも渡す気は無い。
だからルーベルトは優しく、そして囁くように、ロージーの本当の名を呼んだ。
「アリュースラ……」
「ルー……」
ルーベルトはロージーの本当の名を呼び、再びロージーをその腕の中で抱いた。抱いたロージーが愛おしいほどに、ルーベルトの影はより色濃く伸びた。ただ、もう影に怯える自分さえも受け入れる覚悟はできた。この腕の中にいる儚い少女が、水際まで自分を引き上げてくれた。
もう、恐れるものは無い。朧な炎が暗い水辺を照らし、己を嘲る己自身が映し出されると、ルーベルトはそんな己を他人事のようににやりと笑った。幾重にも重なった自分がそこにいた。無数の波紋が水面の上を複雑に、しかし規則正しくその弧を描いていた。
ロージーはルーベルトの胸の中で、孤独を抱きしめた。わたしの真心は彼に捧げた。この人がいれば、わたしはどんな苦しみと淋しさとも歩いていけると、そう信じることができた。
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