隣にある宝物

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隣にある宝物

 北ヶ丘高校には、ちょっと変わった行事がある。  文化祭の後夜祭で、宝探しが行われるのだ。二人一組になり、学校の敷地内に隠された宝物を探すのである。色分けされた宝石型の玩具を見つけることができた暁には、彼らの間に永遠の絆が約束されるという。それを、恋人として結ばれる、と解釈する者は少なくない。  後夜祭の直前にペアを申請し、宝石の色を指定された用紙を受け取ってゲームスタート。参加することを決めた生徒全員が、一斉に校内に散って行き宝探しをするのである。  どんなゲームであろうと勝負は勝負。全力で臨んで挑みに行くのが俺の流儀だ。問題は、参加の為のパートナーで。 「あ、あのね。藤崎(ふじさき)君」  またか、と。教室でぼんやり座っていた俺は、うんざりした気持ちでその女子を見上げた。  クラス全体で見ても、そこそこ可愛い方に入るだろう。長いさらさらの黒髪に、長めのスカート。清楚なお嬢様然とした佇まいの、森田美良(もりたみら)。 「後夜祭なんだけど。私と、ペアに……」 「ごめん、パス」  全部言い切る前に、断りを口にした。少女はしょんぼりした様子で、そう、とだけ言ってしおらしく撤退する。その様子で心変わりでもすると思っているんだろうか。知っているのだ――彼女が一体何をしているか。  優等生の顔をしておきながら、裏で人の悪口三昧。廊下でひそひそと後輩の悪口を言って笑っている様を、自分は今まで何度も見かけている。平気で人をこき下ろして笑っていられるような女は流石にごめんだった。  彼女のようにペアを申し込んでくる女子が、ここ数日後を絶たない。どうにも俺は、彼女達の中では“イケメン”の部類であるらしい。多分サッカー部でストライカーをやっているというのが大きいのだろう。ああ本当に、本当に彼女達の本性さえ知らなければ、笑顔で誘いを受けたかもしれないのに。  元々、俺は用心深い性格だ。進級してすぐ、クラスのメンバーについては多少なりに情報を集めてあったりする。残念なことに、自分に言い寄ってくる女ほど腹に黒いものを抱えている人間ばかりなのである。  先ほどの森田美良もそう。  影で人の悪口を平然と言う“表向きだけ優等生”だとか。  LANEグループで気に食わないクラスメートをハブにして、それを面白がって吹聴する“表向きはアイドル”だとか。  それこそ学校の裏掲示板で、あることないこと人の悪口や恥を書き込みまくる“表向きは人気者”なんて女もいた。そんなことばかり経験していたら、嫌でも人間不信、女性不信になるのも当然だろう。
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