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去年、一年生の時。特に何も考えずに一番最初に声をかけてきたクラスの女子とペアになってクリアできなかった結果。ゲーム後に、その女子には裏で友達に愚痴を言われまくっていたことが後ほど露呈することになったのである。やれあいつが愚図だからだとか、きちんと探す場所を考えてないせいだとか、そのくせ女の子を気遣う空気が読めない人間だとか。
人は、表ではにこにこと“大丈夫だよ、気にしないで”なんて言いながら。裏ではあんな風に、平気で人を傷つける言葉が吐ける人間がいる。俺が今年のペアを断り続けている最大の理由は、まさにそこにあるのだった。
――くっそ、めんどくせぇ。このままずーっと、文化祭の日までペア誘われ続けるのかよ。
段々と、俺も面倒になりつつあった。女子達は一向に諦める様子がない。中には一度断られた女子が、もう一度声をかけてくることさえある。どうにかならないものか――そう思った俺は、ついにある決断をすることになるのだ。
こうなったら、自分からさっさとペアを選んでしまえばいい。それも、女子達が諦めたくなるような相手を、だ。
「よし!」
思い立ったら吉日。俺はあるクラスメートのところまで行って、声をかけたのである。
「おい、緑川!」
廊下を歩いていたその人物は、きょとんとして振り返る。全く喋ったことがない相手ではなかったが、それでも特に親しかったわけではない。自分?と己を指差してぽかんとしている彼に、俺は告げたのである。
「頼みがあるんだけど。後夜祭の宝探し、俺とペアになってくれね?」
相手は、緑川祈雨。正真正銘――男子生徒であった。
***
その後、ひと悶着あったのは言うまでもない。
あの藤崎政景が、まさか男子生徒をペアに選んだ!実はホモだったのか!という噂が当然のように飛び交ったからである。
俺からすればもう、ぶっちゃけそれでも良かった。性格の悪い女どもに言い寄られ続けるくらいなら、同性愛者だとでも勘違いされて近寄られなくなる方がマシだと思ったのである。
「なんかいっぱい噂されてるけど、本当に俺で良かったの?まあ、宝探し面白そうだからいいけど。俺、参加する予定もなかったし」
祈雨は特に嫌がる様子もなく、ペアを快諾してくれた。本人も同じく“ホモ疑惑”をふっかけられることはわかっていたはずなのだが、そういうことは全く気にしていないらしい。
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