ただただまあるくあった時の……。

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ただただまあるくあった時の……。

 事象の果て。  あまたの世界がシャボン玉の泡のように生まれては消えていく。  大きな泡もあれば小さな泡もあって。そして、あたしという存在もまたそれとおんなじ泡だった。  大きな泡からたくさんの小さな泡が生まれたりもする。そんな光景。イメージ。  時間って概念も物質っていう概念もここでは存在しなくて、ただただあたしの意識がそうして漂っている、そんな感じ。  ふっと。  あれ? これって以前、ほかでも見たことがあるような。  前に此処に来た時じゃない。  何処か別の所で……。  そんな意識が湧く。  しばらくそうして思い返して。  気がついた。  そうか。  人の心が生まれるところもこんな光景だったな。って。  大きなまるいコトワリの輪廻。  円環。  そんな円環からいくつもいくつもちいさな心が分かれて生まれてくる。  泡のように湧いてくるそんな光景。  人の心はちいさな泡のように生まれ、そしてまた大きな円環に帰るのだ。  円環の中に溶け込んで、全てと一体になり。  また新しい心が生まれる。  たまに溶けきらずすぐまた分離しちいさな泡として独立することもあるけど、それが前世を覚えている場合の転生。  けっこうイレギュラーだから、あまり数は多くない。  人の身体が魂の入れ物に過ぎなかっただなんて誰かが言ったけど、それは正確じゃない。  生命が誕生しないと心も生まれないのだ。  円環から生まれる心は生命の誕生という形でこの世界に現れる。そして、大きく育っていくのだから……。  事象の果てで思考の海に溺れそうになったあたしは時の流れっていう物が存在することすら忘れかけた。  このまま只々世界を見守っていても良いのかもしれない。  そんな意識も芽生え。  ああ。  只々まあるくあった時の。  はるか以前、まだあたしという存在が最初に誕生した時の。  ただただまあるくあった時のことを、思い出し始めていた。
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