月の降る夜に。

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月の降る夜に。

「ミーシャ、ミーシャ。そろそろおきないかなぁ?」  かわいい声が心の中で響く。  ああ。  帰ってきたんだあたし。  っていうか、今まで夢見てた? あれは、悪夢?  ううん、たぶん、違う……。  だけど。  いまだけは、嬉しい。この今の生をまた過ごすことができるのが、嬉しいのだ。  あたしはミーシャの姿、ミーシャヌイをレイアの顔の前に顕現させて。  ——おはよお  って言いながら。  にゃぁ。って鳴きながらレイアの顔に頭を擦り付けた。  うん。  嬉しい。  にゃぁ。  嬉しい!  もう、とにかく嬉しいの!  にゃぁにゃぁと顔を擦り付けて。レイアも「くすぐったいよ、ミーシャ」って言いながら笑顔だ。  頭をもしゃもしゃ、耳の後ろもこりこり、両手でもふもふしてくれるレイア。  この手の温もりを忘れたく無い。  そう、思ったのだ。  あたしの中ではもう随分と時間が過ぎている気がしてるけど、ここは寸分違わずもとの世界のもとのレイア。  ノワの元から帰り寝た、あの日の翌日の朝で間違いないらしい。  今日は学校で、レイアはいつも通りに通学して授業を受けた。  コーラスとコルネリアがあたしと話がしたいっていうからお昼休み人気のない部屋に入って挨拶だけした。  やっぱりほんとだった。  夢じゃ無かった。  そう二人が話すのがなんかおかしかったけど。  ここは、マシンメア・ハーツの世界? VR世界なのだろうか?  ううん。  ラギがいたあの世界は確かにこの世界の過去。  魔・ギアが作られた魔道王国も、確かにあの過去世界はもともとはマシンメア・ハーツの世界だったのかもしれないけれど。  でも、もうこの世界は一つの世界として独立してる。  ちゃんとした生きた世界になっている。  人の思い描くお話もまた、世界を生むのだから。  命が、円環がちゃんと機能してるのも、わかる。  レイアも、ノワも。  データなんかじゃ無い。生きてる。  ああ。嬉しい。レイア。あたしは本当に、嬉しいの。  夜になって。  レイアが寝る時間になってからあたしはまた身体を借りた。  どうしても今夜中にノワに会いたかった。  会ってその温もりを確かめたくて。  今夜も月が綺麗だった。満月? まんまるな月の光が降り注ぐ。  そんな月の降る夜に。  あたしはふにふにとノワの待つ森まで飛んだ。  この世界を楽しみたい。そんな気持ちにもなってたから。  ぽんと跳ぶのではなくて、ね。  あれは、ケンタウリ、そう、ケンタウリの森って名前だったっけ。  そんなことを思いながら、ふんわりと飛んだのだった。
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