愛のカタチ

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それから日が経つごとに、庭園の風景は変わっていきました。 低木が寄り集まって幾何学模様を作り、様々な配色のお花が植えられた花壇ができて、一輪しか咲いていなかったあのバラも次々と開花し、アーチ状になった木柱を鮮やかに彩りました。 日ごとに変化をみせる窓外からの景色を見るのが毎日の楽しみになり、庭園の手入れにうちこむあのお方を遠くから眺めるのが私の日課となりました。 時折、部屋の近くを通りがかったあのお方と、言葉もない、微笑みだけの挨拶を交わしているうちに、私はしだいに、そのお方のことが気になって気になって仕方がなくなり、とうとう自分の中だけで留めておくことができなくなりました。 「カーラ、あのお方のお名前は、ご存知ですか?」 「あちらは、新しくガーデナーとして迎え入れた、シメオン・アスターさんでございます。 以前はシメオンさんの父君が当家にお仕えされていましたが、どうやら腰を悪くされて、今後の復帰は難しいとのことでしたので、息子さんであるシメオンさんをご紹介いただいたのです。 なんでもアスター家は代々、ガーデナーを生業としているそうですよ」 「そうなのですか。……あのお方は、シメオンさんというのですね」 「シメオンさんのことが気になりますか?」 「どうしてそう思うのですか?」 「最近、いつも窓の外を見ておられるので」 「……私は、探してしまうのです、シメオンさんのお姿を。 この広い庭園を見渡して、そのお姿を見つけると、まるでお花が咲いたように心が明るくなります。 カーラ、これは、おかしなことでしょうか」 「いいえ、フィオナお嬢様。それは素敵なことでございます」 「素敵なこと、なのですか?」 「はい、とても」 「……あの、カーラ? シメオンさんに、言伝をお願いしたいのですが」 「はい。なんなりとお申し付けくださいませ」 そのときの私はシメオンさんにお伝えしたいこともうまくまとまってはいなかったのですが、なにか彼に対してアクションを起こしたいと、そんなことを思いました。 自分の率直な気持ちを追いかけたときに、まず目に留まるのは、あの紅色のバラでした。 花図鑑でしか見たことのなかったあの花が集まったとき、こんなにも美しく庭園を彩るなど、私は知らなかったのです。 叶うのなら、あのお方が毎日手入れをしているバラ園の中をゆったりと歩いてみたい。 近くで見ると、また格別の光景が広がっていることでしょう。 どんな風が吹いて、どんな香りを運んできてくれるのでしょうか。 ……シメオンさん、あなたはどんなお方ですか? どのようにお話をして、どのようにお笑いになりますか? いつからかそんなことばかり考えるようになった私は、やっぱりおかしいのかもしれませんね。
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