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物心ついたときから、私の部屋には外から鍵が掛けられていました。
正確にいうと、お母様が亡くなられてから、私がこの部屋を出ることは叶わなくなったのです。
ですが、それは仕方のないことだと思っていました。
なぜなら、心から愛した女性を亡くしたお父様のために、私ができることはひとつしかありませんでしたから。
それは私がこの部屋に居ること、居続けることです。
お父様の目が届くこの場所で、私が穏やかに微笑むだけで、お父様の悲しみが埋められるのなら……。
私は一生、自由を失くしたままでよいのだと思っていました。
あのお方に出会うまで……。
私の部屋を訪れるのは、主に二人の人物でした。
メイドのカーラが食事の用意や必要な身の回りのお世話をしてくれて、時々、お父様が私の顔を見にやってきます。
部屋から出ることができない私の前に、その二人以外の人物が登場することはありませんでした。
「カーラ、あそこ、赤い花が咲いています」
「あれはバラでございます、フィオナお嬢様」
「少し早咲きのバラですね、まだ一輪しか咲いていません」
「これからたくさん咲きますよ」
私が不思議に思ったのは、この窓からあの花を見るのが初めてだったからでした。
それどころか、噴水やトピアリーの様子も以前とは違っているような気がします。
噴水にちらせてある花びらがお水を含んできらきらと輝いているこの光景も、球体や動物をかたどった剪定で整えられた遊び心を感じるトピアリーも、以前はたしかになかったはずなのです。
そう考えると、私の胸に想起してくるのは、つい先日の出来事でした。
最近、見知らぬ男性の方がなにやら熱心に庭園を出入りしており、誰かしら、と興味の惹かれるままに目で追っていると、私が寄りそうように立っていた二階の窓を見上げたそのお方と、ふいに視線が交わったのです。
そのお方のダークブラウンの髪が風に優しく揺れて、黄金色の瞳が太陽の光を浴び、さらに輝きを増して見えました。
私は微笑みを浮かべました。するとそのお方は、慌てたようなそぶりを見せたあと、ぎこちなくではありましたけれども、笑みを返してくれました。
この大きな窓を開け放ってお声をかけたら、どのようなお返事をくださるのかと考えるとなんだか楽しくなりました。
しかしそれは、きっとお父様がお許しくださらないことでしょう。
私は高揚した気持ちを押し込んで、そっと窓から離れました。
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