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結局、何人かに話しかけられ、半ば逃げるように大学を出て、家に着いた時には7時だった。
「やば、疲れた」
バフっといい音を立てて、リビングにある丸いビーズクッションにうつ伏せで倒れ込む。
人をダメにするクッション…最高。
「なんでこんな遅いの?今日はオリエンテーションだけだったでしょ?」
高校2年生の妹、爽子(さわこ)がキッチンで何かを炒めながら話しかけてくるけど、あんまり頭の中で処理できない。
「お兄ちゃんさ、もうそのキャラやめたら?外ヅラ良くして疲れてるんなら意味なくない?ヒーローかアイドルにでもなりたいの?」
「嫌われてる兄なんかやだろ?」
「好かれ過ぎるのも困るのよ、新しいクラスの女子でお兄ちゃんのファンがいてさー、すっごい話しかけてくるの!もう何度目、これ」
この話は1年の間に何度かされる話だ。
4月の新学期だけじゃなく、夏にサーフィン連れてってほしい、冬にクリスマス空いてないか、バレンタインはチョコ渡しといて。
全部、俺宛への伝言が爽子に届く。
「迷惑してるのよ、私」
机に強く叩きつけられた皿に乗ったオムライスは、爽子の得意料理だ。
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