0.はじめまして高梨さん

5/17
前へ
/289ページ
次へ
結局、何人かに話しかけられ、半ば逃げるように大学を出て、家に着いた時には7時だった。 「やば、疲れた」 バフっといい音を立てて、リビングにある丸いビーズクッションにうつ伏せで倒れ込む。 人をダメにするクッション…最高。 「なんでこんな遅いの?今日はオリエンテーションだけだったでしょ?」 高校2年生の妹、爽子(さわこ)がキッチンで何かを炒めながら話しかけてくるけど、あんまり頭の中で処理できない。 「お兄ちゃんさ、もうそのキャラやめたら?外ヅラ良くして疲れてるんなら意味なくない?ヒーローかアイドルにでもなりたいの?」 「嫌われてる兄なんかやだろ?」 「好かれ過ぎるのも困るのよ、新しいクラスの女子でお兄ちゃんのファンがいてさー、すっごい話しかけてくるの!もう何度目、これ」 この話は1年の間に何度かされる話だ。 4月の新学期だけじゃなく、夏にサーフィン連れてってほしい、冬にクリスマス空いてないか、バレンタインはチョコ渡しといて。 全部、俺宛への伝言が爽子に届く。 「迷惑してるのよ、私」 机に強く叩きつけられた皿に乗ったオムライスは、爽子の得意料理だ。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

165人が本棚に入れています
本棚に追加