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いつのまにか風はやみ、雪乃は恐る恐る顔をあげた。
そこに男の姿はなかった。
あれだけの突風が吹き荒れたにもかかわらず、店内も特に変化はない。
ただ、彼の悲痛な声だけが未だ耳奥に残っている。
苦しげに許しを乞うていた、いくつかの言葉たち。
(夢……ってわけでもなさそうだし)
げんに足元には割れた鉢植えが転がっている。
早めに植えかえなければ、せっかくの青い花は萎んでしまうだろう。
雪乃は、手頃な鉢を取りに店の奥へと向かった。
(やっぱりヤバい客だった)
あのての客に、オプションをつけてはいけなかった。
でも、それ以上に雪乃を消沈させたのは、彼の希望に添えなかったことだ。
(結局どんな言葉が欲しかったんだろう、あの人)
ふと浮かんだのは、ごく一般的なネモフィラの花言葉。
「どこでも成功」「可憐」そして──
「あなたを許す」──
新たな鉢を手に、雪乃は足元に目を向けた。
けれども、どんなに見つめたところで、青い花は、やはりただの青い花に過ぎなかった。
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