第十三話 波多野千翔

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「好きです。付き合って下さい。」 可愛らしい女の子が顔を赤らめながらそう言った。これも、もう何度目だろう。 「ありがとう。けど、ごめん。」 彼女は唇を噛むと、頭を下げて何処かに走っていく。その度に居た堪れない気持ちになった。 「今日も告白されたんだって?流石王子。」 「前、他校の子にも告白されてたよね。」 「まじかよ、イケメン怖。」 そう言って、茶化してくるのは矢田、こちらを向かずにゲームを続けているのは千葉。どちらも、中学一年生からの友人で、矢田の大雑把の性格と千葉の基本無関心な所が僕は好きだった。 「見た目だけで、好きって言われても、嬉しくないよ。」 「いやいやいや、世の中を見た目と金だぜ?まだ告白を一度も受けていない俺を見ろよ。こんなに優しくてかっこいい性格してんのにな。」 「自惚れすぎ。お前がイケメンでも誰も告白しねぇよ。ドンマイ。」 「千葉、俺心弱いんだぜ?知ってるか?」 「弱かったら、バレンタインにクラスの女子全員には強請ってチョコ貰ったりしないでしょ。」 殆どの人は、僕を遠目で見るだけで近付こうとはしなかったけれど、この二人だけは話し掛けてくれて、一緒にいることを許してくれた。そんな大切な友人で、僕の心の拠り所だった。 中学に上がってから、女子によく告られるようになった。大抵は一目惚れだとか、仕事を(1回の少し)手伝ってくれただとか、結局、自分の事をよく知らない人達ばかりで、何でそれで告白なんか出来るんだろうと、思ってしまう。 矢田にはよく羨ましがられたが、僕は人の好意というものが、うざったしくて仕方が無かった。 そんなこんなで、中学は意外にも平和に過ごすことが出来た。母親は僕が中二の頃、無事退院した訳だが、俺を見ると、苦しげな表情をするので、極力会わないようにしていた。祖母にも遠ざけられるから、結局会えないし丁度良かった。 「九渡高校……。」 中学三年になる前の春休みで暇だったので高校を探していたら、その高校が目に付いた。寮ありの公立高校。偏差値は高い方だけれど、目指せない程じゃない。それに何より公立で、田舎にあるという点。 ここに行きたい、と思った。ここなら、家を離れられるし、きっと祖母も了承してくれる。 結果、祖母は今までで一番嬉しそうな表情を見せたし、無事合格することも出来た。よし、後は卒業だと言う所で、また告白を受けた。僕より背が高い人で、運動部に入っていたのか、肌は黒かった。勿論、断った。流石に、遠距離恋愛する気は無いのだ。向こうも振られること前提だった様で、吹っ切れた様子に清々しさを感じた。めそめそして、いつまでも引き摺る今までの子より好感度がもてた。 「高校行っても、また会おうな。」 「辛いことあったら、いつでも相談して。」 卒業式も終わり、最後の別れの時間で、矢田と千葉、二人に笑顔でそう言われた。本当に良い人達だった。結局、彼等以外に出来た友達はいなかったけれど、彼等が中学の間の自分を支えてくれた。 「中学三年間、本当にありがとう。矢田と千葉に会えて良かった。また、一緒に話そう。」 「あぁ!また……」 矢田がそう答えようとした時、目元を押さえた。千葉が珍しく「矢田」と呼んで背中に手を置いた。 「一生会えないわけじゃないでしょ。」 「分かってるけど。」 「ごめん、波多野。此奴泣くつもりは無かったみたいなんだけど。」 「泣いてねぇ!!」 「ハイハイ。」 僕は呆然と二人を見た。いつも通りの千葉は相変わらず、矢田に冷たかった。泣く矢田、それに驚く自分。千葉は声を出して笑った。それにもまたびっくりする。 「元気でやってね、波多野。大変なのかもだろうけどさ。」 「俺ら一生友達だからな!!!」 「一生は無理じゃない?」 「無理じゃない!!」 そんな二人を見て、自分も寂しく感じてたことに気付く。二人がいたこと、背景は嫌な事ばかりだけれど、ここに来れて良かった。 「うん、友達だよ。」 最後は二人とも笑顔で、俺はきっと笑えていないけれど、二人には伝わってくれてるんじゃないかと思う。
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