第三話 金髪男

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「理解出来ない。」 目の前でゴロゴロと転がって笹を齧っているパンダを見詰めながら、俺は言葉を零した。 「パンダが?」 「違う。あれに乗る意味がだ。」 俺は自分の後ろを指さした。遠くに見えるジェットコースターからまたまた悲鳴が聞こえる。何故、あんなのが人気なのだろうか。そして、先程、擦れ違ったカップルからは「ジェットコースターはやっぱり楽しいよね。」などという会話が聞こえてきた。ティーカップなるものも乗ったはいいが、周りが楽しそうにしているのが理解出来なかった。 「好きな人は好きだよね。ジェットコースター。」 「あんなに叫んでいて楽しめているのか?」 「うーん。どうだろ。まぁ、人それぞれなんじゃない?」 「ここが人で溢れている理由を知りたい。」 「そうはいうけどさ、勇もいつもより楽しそうだよ。」 そうだろうか?俺は首を傾げた。 鋭いのに疎いと柊に言われたことがあるのを思い出した。いつ言われたのかは忘れてしまった。俺は自分の感情に疎いらしい。ただ、考察や勘は鋭い。そう付け加えられた。俺が「何を言ってるんだ?」と眉を顰めていたのが伝わったのか、柊は少し困った様に笑った後、「勇の事は俺が理解するから、大丈夫だよ。」そう言われた。 「じゃあ、楽しいんだろう。」 俺の言葉に柊は満足そうに笑った。 柊の言葉は信憑性の欠片も無いはずなのに、何故か俺を納得させた。柊が言うなら、そうなのだろうと素直に信じてしまう。 「もうお昼も過ぎたし、そろそろ何か食べに行こうか。あそこの売店で何か買ってくるから勇は此処で待ってて。」 俺は「あぁ。」とだけ、返す。柊はそのまま人混みに紛れてしまった。 どれくらい待つのだろうか。 遠くで長蛇の列ができているのが見え、大分時間がかかる事を察した俺は近くに休める場所が無いか探した。どうせなら座るか寄り掛かることができた方が良い。 柊が並ぶ姿を一瞥した。視線は隣のメニュー看板に移っており、俺に気付く様子は無い。 少し動くだけだ。買い終わったらメールでもくるだろう。そう安直に考えた後、右か左かも認識していない俺が安息場所を探しに行ったのだった。 「はぁ〜〜〜。」 自分の口から長い溜息が出た。理由は疲労と自身の臆病さへの自己嫌悪。先程まで一緒に居た猪塚は、グッズ販売店を回っている。疲れた俺はそそくさと店を出て、少しでも疲れを取ろうとベンチに腰をかけていた。 俺は絶叫系が大の苦手だ。ホラー映画、高所、暗所。心臓に悪い物が世の中に溢れていて、それを楽しむ人種がいるというのが不思議な話だ。 その俺にとって理解出来ない人種の一人が猪塚だった様だ。当然、キラキラ王子…柊だっただろうか。そいつが、小野寺の腕を引っ張って、嬉しい事に俺は猪塚と2人きりになる事が出来た。猪塚も小野寺と離れても俺と楽しそうに笑ってくれるのはとても嬉しかった。しかし、地獄を見るのはそこからだった。猪塚は絶叫系アトラクションが好きらしく。ジェットコースター、ジェットコースター、ジェットコースターと先程3連発で別々の種類のジェットコースターを乗り終わったところだ。 猪塚にバレてなければいいけど…。 この肝っ玉が据わっていない性格は男としてかなり恥ずかしさがある。 ガサリ。茂みに囲まれ、建物の裏にあるベンチ。騒々しい人の声が遠くの方で聞こえる中、茂みからいきなり音が鳴った。俺は驚き、反射的に肩を上げてしまう。 恐る恐る音のした方に目を向け、俺は「げっ。」と声を漏らした。 「……小野寺。」 突如現れたのは3時間程前に行動を別にした俺がこの世の中で一番見たくない顔だ。殆ど無表情の彼は態度も無愛想で猪塚が好きな俺の天敵。 「柊はどうしたんだよ。」 無言のまま俺を見つめる小野寺に尋ねた。小野寺は首を傾げる。何故か服の裾に葉が付いていた。 「飯を買いに行った。」 「この近くのか?」 この近くに食べ物を売っている所なんてあっただろうか。もし、あるのならこの時間に猪塚に何か買ってあげたい。 「何処にあるんだよ。」 小野寺から返ってきたのは返答ではなく、顰められた顔だった。 「…………何処だ、ここは。」 「はぁ?」 思っていたより此奴は馬鹿なのかもしれない。猪塚が好きになった理由が余計分からなくなり俺は頭を抱えた。
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