第三話 金髪男

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「休める所を探してたら道に迷った?」 小野寺は俺の隣に座りながら頭を縦に振った。 「方向音痴だからな。」 「だったら動くなよ……。」 自覚済みだとでも言うようにはっきりとそう言い切る小野寺に頭が痛くなってきた。つまり理解不能。もう少しぐらいわかりやすい奴だと思っていたはずなのだが。 「柊はよくお前に付き合えるな。」 「本当だ。昔から俺の傍を離れない変な奴だった。」 確かに変な奴ではある。柊は常に笑っていて、小野寺よりも人付き合いは上手いように見えるが、何故か小野寺の隣にいつもいる。正直、小野寺と猪塚が二人きりにならない点に於いてはとても助かっていたが。 「やる。」 「はっ?」 いきなり投げられた物を反射的に受け取る。それは少し水に濡れていて冷たかった。 「緑、茶?」 ラベルに書かれた文字を声に出す。いきなり渡された物に俺は困惑した。 「迷っている間に自販機で買った。だからやる。」 俺が不思議そうな顔をしていたからか、ぶっきらぼうにそう言葉を付け足した。それでも意図は読み取れなかった。俺は訝しげに小野寺を睨んだ。こいつは訳もなく渡すのか。何か企んでいるんじゃないか。そう思えてしまった。 まだ分からないのか。そう言いたげに気だるげな視線を向けられたあと、小野寺はため息をつく。 「絶叫系が苦手なんだろ。」 気付いていたらしい。その事に俺は驚愕した。人の事なんて一切考えない卑劣な奴だと思っていたからだ。 他人に興味はない。彼に人情は無い。そう彼は後ろ指をさされながら陰口を叩かれていた。俺もそうとしか思えなかったし、そうだと信じ切っていた。だからこいつには絶対猪塚は渡さないと思っていた。 「俺は別に猪塚の要望に全て答えろなんて事は言ってない筈だ。何で無理をしてまで猪塚の要望を呑むんだ。」 理解が出来ない。そう遠回しに言ったような気がした。しかし、心配、しているだろうか。非情だと言われる彼が。 いや、それは知らずに決めつけていた勝手な俺の小野寺という人物像か。 もしかしたら、小野寺は俺が思っているより優しさがあって、人間らしい奴なのかもしれない。 「…好きなやつの為なら何でもしたいと思うだろ。」 それ以上答えるつもりは無いらしい。レモンティーの蓋を開けて、小野寺は飲み始めた。今までよく見ていなかったが、彼の顔は整っていた。美人、まではいかないが、ふと目を惹かれてしまうような魅力のある顔立ちだった。 そんな事を思いながらぼーっと彼の顔を見つめていると、目が合ってしまった。背が低いからか上目遣いで、切れ長の目に伏せられている睫毛が女の様だと思った。 猪塚は明るく、可愛い。それとは対照的な雰囲気に俺はゴクリと喉を鳴らした。 そんな俺を他所に小野寺はペットボトルの蓋を閉めて、鞄にしまった。そして、スマホを手に取る。すると、タイミング良く着信音が鳴った。 「……悪かった。…目印?…茂みがある。あとベンチだ。……それ以外は……あぁ、仁山が居る。…たまたま居た。分かった。」 通話の相手は柊だろうか。それにしても、彼の喋り方は硬いというか、ぎこちなさを感じる。そう思っていたら、小野寺は耳から携帯を離して、こちらに目を向けてきた。 「仁山。」 「何だよ。」 「ここは何処だ。」 「…遊園エリアのお土産屋の裏。」 「ありがとう。」 「柊…ーー。」 電話に戻った小野寺を俺は目を見開きながら見つめる。まさか普通に礼を言われるとは思っていなかった。先程まで嫌な奴にしか見えなかったのに、今では印象が180度変わっていた。 小野寺 勇という男はやっぱり無愛想で理解しづらいやつだが案外素直で優しいやつだった。それが今の彼への評価だった。
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