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第四話 傲慢な男
月曜日というのは、一番身体が鈍る日だと思う。
俺は机に顔をうつ伏せながら、顔を窓の方に向け、外をぼうっと見つめていた。
俺ら一年生の教室は一番上の四階にある。エレベーターが欲しいがそんな物はある筈も無く、朝から昇降口から見える階段に毎度内心で溜息を付きながら、重い足を引き摺ってここまで来ているのだ。
まだ教室には人っ子一人居らず、丁度朝練を始めたのか運動部のよく響く声が風に乗ってここに届く様になってきた。もう少し経てば、閑散としたこの校舎も騒がしくなるのだろう。
春の朝吹く風はほんのり強まってきた陽射しを中和する様に涼しく心地がいい。
「勇。」
声を出す程の気力は無いので、取り敢えず顔だけ名前を呼んだ彼の方を振り向いた。
「おはよう。また、俺の席座ってるの?」
「窓際の席が一番いいんだ。」
春の窓際の席が一番心地の良い場所だというのに、出席番号順に並ぶこの席では俺はどう頑張っても真ん中の席になるかならないか位で、窓際の席になれることは無い。しかし、「柊」は別だ。
「柊という家名が欲しい。」
「なに?プロポーズ?」
「断じて違う。」
柊から随分楽しそうな笑い声が聞こえた。朝から元気な奴だ。
現在5月中旬。これを過ぎれば梅雨となり、そして俺の嫌いな季節その一、夏が来る。夏が来てしまうと、窓際の席にいくメリットは無くなり、結局俺は窓際の席で春を過ごせないままになってしまうのだ。
「柊、俺はお前が心底憎い。」
「突然だね。俺に何かするの?」
「それは面倒臭いな。」
勇らしい。そう言って柊の笑い声がまた聞こえた。
中学の頃から、柊は部活に入っていないのにも関わらず、早くから登校している。何故だと尋ねてみたら、「勇が居るからだよ。」と当たり前のように笑顔で返された。
幼い頃から常に柊は俺の隣に居て、俺が戯れているクラスメイトの中心を指して「あっちに行けばいいんじゃないか。」と言っても、「勇の方が良い。」と返して、俺の周りから離れないのだ。だから、朝早くに登校する理由で俺が居るからだと返されても、「ふーん。」と簡単に納得してしまった。
なんで柊は俺とそこまで一緒にいようとしてくれるのか。やはり、猪塚が原因なのだろうか。
「どうしたの?」
柊に尋ねようとしたが彼の目を見つめるだけで声には出せなかった。ここは、踏み込んではいけない領域なのだと後から頭で理解する。
「…さぁな。」
俺はまた窓の外を見た。柊の笑い声は聞こえなかった。表面上で笑っているのかもしれないし、不思議な顔で頭を傾げているかもしれない。もしかしたら、俺の予想のつかない表情をしているのかもしれない。
いずれにしても、俺はもう一度柊の方を振り返る気は無かった。面倒くさかったから。きっとそれが理由なんだろう。
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