第一話 友人A

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第一話 友人A

友人A。またの名を、柊響介(ひいらぎ きょうすけ)。上も下も名前みたいで紛らわしいとこの名を見るとよく思う。 髪は暗めの茶髪で見た目上はサラサラしていて前触らせて貰った(無理矢理触らされたとも言う)ことがあるのだが、意外と芯はしっかりしていてあまり触り心地は良くなった。これを本人に伝えたら(感想を求められた)無言の笑顔で責められた。無理矢理触らせた癖に、という反論は呑み込んで其の儘俺はその話を流した。 彼は俺より背が高い。後は他には仮面被って王子様してる癖に、俺にはかなり当たりが強く、冷たくあしらってる俺に妙に突っかかってくる変な奴だ。 さて、この友人A(俺に友人Bはいない。そして彼曰く俺達は親友らしい。)先程トンデモナイ発言をぶちまけた。俺はその話についていけず、俺は呆然と彼の顔を見た。 漸く心も頭も落ち着いてきたところで、俺は先程の話を蒸し返すことにした。面倒事は御免だが、分からないことを分からないまま放置するのも、モヤモヤして嫌になる。 「で、びーえるって何なんだよ?」 「BLは、ボーイズラブの略。強いて言うなら、この世界はゲイばかりだという訳だよ。」 真面目な顔して何言ってんだこいつ、とは思ったが、俺に冗談など言わない柊なのだから、俺は疑念は薄い。 「一先ず、信用してくれてるようで良かった。後正確に言うと、だけれども、俺が言う世界はこの学校中心の世界だ。つまり、この学校内ではよくゲイカップルが成立する、そしてそれが普通だ、って事なんだ。」 ゲイやら何やらと言っているが、俺としては勝手にしてくれという意見なので、きっと俺も大して気にしはしなかっただろう。 しかし、柊が転生者であり、大まかではあってもこの未来(さき)を予測出来るという事実に俺はまだピンと来ていなかった。 「だから協力しろ、って事か?」 「違う。俺は俺で対処するから、勇の協力は今の所大丈夫。」 「だったら何で俺に話す必要があった?」 「何で勇に言う必要があったのかと言うとね、勇が俺の知るストーリーに強く関係しているからなんだ。」 柊は両肘を机に立て、顎を支えた。 「勇さ、今日の出来事、覚えているよね?」 俺は頷く。今日と言えば、俺が通う事となった男子校、九渡高校の入学式であった。後は軽く説明やら、テストやら。それが終わった後、校内をゆっくりと探索し、この教室に戻って来た。そして、柊からの今の話だ。 「……入学式、その前の事か?」 「正解。」 柊がニコリと笑い、軽く指を鳴らした。 「入学式の前、確かに勇はある男子生徒と出会った筈だ。」 俺は頷く。確かに出会った。顔はよく覚えていないが、丁度柊とはぐれて体育館裏を俺は彷徨っていた。 誰かの話し声が聞こえて、向かってみれば顔を紅くした男子生徒に距離を詰められている生徒が居た。明らかに、困った顔をしており、見て見ぬ振りをしてしまおうかとも思ったのだが、丁度斜め上にあった時計を見て、もう時間が無いことに俺は気づいてしまった。 この二人以外周りに人は居ない。としたら、あの生徒を助けてしまって、体育館の入口を聞いた方がいい。 『何をしているんだ?』 俺がそう声を掛けると、詰め寄っていた男子生徒は大きく肩を跳ねさせた。此処には誰も来ないと高を括っていたのかもしれない。 『お、俺は何もしてねぇぞ?』 『どうだか。』 そうして、もう一人の方に目線を移すと、彼は口だけを動かして、俺に訴えて来た。 『た・す・け・て』 黙って詰め寄られていたにしてはやけに強い瞳だった。 その後、俺が何をしたか。普通だったら、蹴るだの殴るだの暴力で助けるのだろうが、生憎人を倒す術など俺は持っていなかった。 ので、この手段だ。 『時間、見てみろ。』 『は?』 『入学式まで後10分と少し。この学校は基本的に入学式に出なければ退学だ。不良を増やさない為の対策だそうだ。つまり、このままだとどちらも仲良く退学だ。どうする?』 勿論、はったりだ。この学校の事なんて俺はよく知らないし、謹慎処分位はあるだろうが、早々退学する学校なんてあっても私立ぐらいだろう。 しかし彼への効果は覿面だった様だ。時間を見て、彼の顔はどんどんと青くなり、そのまま俊敏に消えていった。 『ありがとう、助けてくれて。』 俺より少し背の高い男だった。そう言って、俺に微笑むと『入学式会場、連れて行ってあげようか?』と聞かれた。どうして、俺が迷っている事が分かったのかと聞くとどうやら、何度か視界の端で俺を見ていたようだった。 彼に連れられて、何とか入学式には間に合った。因みに入学式場は体育館では無く、反対側にある講堂だった為、体育館をぐるぐると回っていた俺の労力はその時無だったのだと気づいてしまった。 「その子が勇に大きく関係するんだ。」 その子が誰指しているのか、それは勿論、結果的には俺が助けたことになっているあの男子生徒である。 「さっきも言った通りだけれど、この学校では当たり前に男が男を好きになる。つまり、その子も例外じゃない。」 柊が俺の眼前に人差し指を立てる。 「そして、その子はこの世界の主人公だ。」
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