第十三話 波多野千翔

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そうして、入学した九渡高校でも、未だ告白を受けていた。他校の女子もいるにはいるけれど、それよりも同じ学校の人が多い。男子校なのに。 「好きなんだ。付き合ってくれ!」 女子よりも熱烈で大抵は僕より背が高い。これから告白される回数も減るなぁ、なんて思っていたのに、寧ろ増えてしまって、混乱している。 「すみません。」 失恋後は男泣き、更に噂の加速。噂というのは、無口で気高い雪の皇子様というもので、そんな噂なら告白なんて減るんじゃないかと思うが、どうにも減らない。 頭おかしいのかな、この学校。小学校の頃の男子達はあんなに煙たがってたというのに、偉い違いだ。 今日も今日とて告白を受け、いつも通り一言で断った、筈だった。 「俺、波多野の事、諦められない!どうか一回だけでも俺と付き合ってくれ!」 と、壁に迫られる。力は自分より強い訳だから、振り切る事もできない。きっと、受け入れるまで逃がしてはくれない。どうしようかと、困っていた。 「先生、こっちです!」 目の前に覆いかぶさっていた男子生徒の肩が揺れる。そして、こちらに向かってくる人影を見て、顔を青くすると一目散に逃げ出した。 「大丈夫?君。」 目の前に立つのは少し髪の長い糸目の男子生徒。 「……ありがとう。」 「いえいえ〜、どういたしまして!ねね、君名前は?クラスは??」 耳にはピアス、そして明るい茶髪。ナンパでもされているような感覚が気に入らない。 助けって貰ったところだが、もう関わりたくないと思ってしまう。 「あ、俺、水瀬(みなせ) (しょう)ね!同学年でしょ??めっちゃ綺麗な見た目してるね!友達になろうよぉ!」 この時は無視して帰ったが、毎日毎日こんな感じで迫られてきて、流石に諦めがついて友人として承諾した。その時、素直に喜ばれたのが意外で驚いていたら、「普通に友達になりたかったんだよ?」と困った様に笑われた。 それからまた進級して、今度は水瀬と同じクラスになった。水瀬は案外頭の良い奴で、学年3位以内常連の奴だった。今回は二位までは上り詰めるが、矢張り一位は取れないと悔やしがっていた。 「一位はね、いつも変わんないだよ。だから俺は打倒長谷部蒼人!もうあいつほぼ満点だから。教科の最高得点全部アイツだし。」 長谷部というのは、どっかの御曹子らしく、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群という抜け目の無い男で、ミステリアスな感じがいいと、長谷部もまたモテるらしい。男に。そして彼は一年生にして副会長を務め、今回はもう会長になるのではないかと噂されている。 「なぁなぁ、波多野。俺らも生徒会入ろうぜ。」 そう言われたのが二学期初め。いつも通りの脳天気な笑顔で言われ、僕は硬直する。 「いや、何か、長谷部に誘われてさぁ、あ、波多野も。めっちゃ褒められてさぁ。」 だからこんなに上機嫌なのか、と単純なこの男を冷たい目で見た。打突長谷部蒼人なんて言っていたのはどこのどいつだろうか。 「でもさ、俺、風紀副委員長に立候補するつもりなんだよね。だから、波多野、生徒会に入ってみない?」 生徒会か、と思案する。考えても見なかった事だった。そういう事に積極的になれる人間でも無いし、別に特別成績が良い訳でもない。 「長谷部に会えないかな。」 「え、珍しいね。いいよいいよ!連絡先交換した仲だし!」 どうやら、長谷部という男は懐に入り込むのが上手いらしい。 「水瀬、決める時は一呼吸置いた方がいいよ。」 「なんで、そんな憐れむような目で見てくるの???」
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