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お風呂に詰め込まれたゴミの山。ダンボールやら服やらは押し入れに雪崩になるほど詰め込まれている。
「いや、あのね、最初の3日くらいは綺麗に保っていたのよ。でも、それ以降からゴミ捨て忘れたりしちゃってぇ……。」
そんな言い訳に柊はため息をつく。怒る気力もないらしい。
「……父さんは?」
「仕事。帰りは夜よ。」
「ごめん、勇。俺、これ片付けるから、家帰って荷物取ってきなよ。」
「……いや、俺も手伝う。」
「流石、勇さん!!」
「美愛は一回黙って!」
こうして、帰ってきて直ぐに大掃除が始まった。
「お、終わったァ……」
美愛は疲れきった顔でソファに凭れ掛かっていた。柊は呆れた顔をしながらも手には特製レモネードを持っている。本当に準備の良い男だ。
「まぁ、後コインランドリーから服を持ってくるって事をしなくちゃいけないんだけどね。」
そうして、目の前に置かれたレモネードに美愛は目を輝かせて、それを美味しそうに飲み干した。
「さっすが、お兄ちゃん!呼んで良かったぁ!」
「調子良いんだから…。」
結局、柊は妹に甘い。呆れた顔をしながらも、妹の事は切り捨てられないのが、毎度の結果だ。
因みに何故こんな状態になってしまったかと言うと、柊の父親、慎介さんと美愛は家事がまるで出来ない。やろうとしても、どんどん酷い惨状になっていくから、もうそれは才能かもしれない。そして、天然ドジっ子こと千佳子さんは怪我をよくする。体も弱いので、寝込むことも多い。大きな怪我は今回も含めて過去数回という所だが、家で安静にする為、家事ができないという状態は何度も起こっていることだった。
いつもなら、柊が家にいたからどうにかなっていたが、今回は違う。千佳子さんが心配だったという事もあるだろうが、それよりもこの家の惨状を思い出した柊は慌てて帰省したという訳だ。
「ごめんね、勇。手伝わせちゃって。」
「別にいい。これも覚悟で付いてきたわけだしな。」
「勇さん、ほんとイケメン…。」
「美愛は少しは反省して。」
美愛は「はぁい。」と生返事をすると、台所の方に行ってしまった。きっと、レモネードを注ごうと思ったのだろう。
「千佳子さんの様子は?」
「明日には帰ってくるみたい。お盆中はずっとここに居ようかな、って思ってるけど…良いかな?」
「あぁ。結局、向こうにいても暇なだけだ。それにここの方が快適だ。」
「ほんと、クーラーの有難みを感じるよね…。」
真夏だというのに、それを忘れる程に涼しい部屋。ずっとここにいたいと思ってしまう。
「勇さん、お兄ちゃん、アイスいる?」
「あ、いる。勇も食べなよ。」
「じゃあ、貰う。」
そうして、貰ったオレンジ色の棒アイスを口に含んだ。唇に張り付くような感覚がするそれを歯で崩した。蜜柑のように甘いオレンジを舌で感じる。グミとかジュースとか、果物本来の味では無いのに、葡萄だ、苺だと感じるのは不思議で面白い。
久しぶりに食べたアイスは意外に美味しかった。ただ少し冷たすぎる気もするけれど。
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