第十四話 お転婆少女

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衣服やタオルを畳むのを手伝って、遂に夕暮れ時、慎介さんも帰って来て、「久しぶり、勇君。ごめんね、色々迷惑を掛けてしまって。」と穏やかに声を掛けられた。見た目的には子供とかに泣かれたり、職質されたりしそうだが、その声と笑顔は柊に似て優しかった。因みに美愛は父親似(といっても口元とか雰囲気)、柊は母親似だ。柊家の笑顔は皆穏やかで優しくて、見てると安心感があった。 「勇、今日は泊まっていけば?」 「だけれど…」 「そうですよ、勇さん!私もう少し勇さんとお話したいですし。」 「そうだね、手伝ってくれた御礼もしたいし…勇君、是非泊まっていってよ。」 と、柊家に押されて今日は泊めてもらうことになった。だけれど、服を持ってきていないから一度家に帰ることにした。柊が貸してくれるとは言ったが、彼のはサイズが大きくて着づらい。そう思って断ったら、何故か顔を赤くして、ほっとした様に息をついていた。 そうして、久し振りの自宅に足を踏み入れた。先程までの明るい雰囲気はまるで無く、閑散とした冷たい雰囲気が漂っていた。父は帰って来てはいないようだった。元から、家に帰るという事を滅多にしない人だったから、居ないことに今更驚きはしないのだが。 詰まるところ、この家は長く放置されていた訳だが、意外に部屋は綺麗だった。一度、ハウスキーパー等に掃除を頼んだのかもしれない。 一瞬、そんな事が頭に過って首を振った。 いや、矢張りそんなことは無いだろう。あの人は家の事など気にする様な人では無いから。 真っ暗な家の中に最低限の灯りだけを点けて二階へと上がっていった。そして、一番奥の部屋の戸を開けた。 久し振りに足を踏み入れた自室は、自分がここを出た時から、全く変わっていなかった。まぁ、だれもこの部屋に触れていないのだから、当たり前といえば、当たり前なのだが。 そそくさと必要な荷物だけを纏めて家を出た。灯りを消した家はまた元の状態に戻ってしまった。何となく、玄関の外に立って、ぼうっと家を見た。 そして、俺は鍵を閉めた。 「おかえり、勇。」 「勇さん、お帰りなさい!」 柊家に行くと、そうして、二人が笑顔で出迎えてくれた。しっかりと明かりの点してある家は、まるで俺の家とは異なっていた。いきなり夏の温度が戻ってきた様な感じがした。同じ造りの建物の筈なのに、何故こうも違うのだろうか。 「そうだ、勇さん。あの、一緒に寝ませんか?ほ、ほら!昔一緒にしていたことですし!」 「それって一、二回くらいでしょ。」 「お兄ちゃんは、黙ってて!!」 そんな二人のやり取りに安堵を覚える。昔からこの二人は仲が良くて、ここに来る度にこの騒々しさが味わえた。それが心地良かった。 「もう、狭いだろうし、布団かベッドを貸してほしい。…有難う。」 2人の顔がカッと紅くなった。そして、手で口を覆って目を逸らす。このシンクロ様、矢張り兄妹だな、そう思った。
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