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「勇くん、久し振りね。また、うちの子が迷惑かけたみたいで。」
「いえ、とんでもないです。」
「ふふ、相変わらずね。」
「千佳子さんもお変わりないようで、よかったです。」
千佳子さんを柊と美愛、慎介さんと一緒に病院に迎えに行った。千佳子さんは既に私服に着替えていて、腕や足に少し包帯が巻かれているのが見えた。
「母さん、本当に気をつけてよ。今回なんか怪我それと風邪で両方でダウンしたんだから。」
「そうねぇ、何か健康食でも始めてみようかしら。」
「…それ作るのに必死になってまた、風邪ひくのとか止めてよ。」
「分かってるわよぉ。」
ふわふわとした喋り方で、呆れ顔だった柊にも笑みが浮かんでいた。何だかんだ、安心したのだろう。
「母さんが病気になったの、俺が家離れたせいかな。」
帰宅後、柊はぽつりとそう呟いた。
前は柊が千佳子さんの手伝いをしていた。しかし、柊がいなくなってしまったことで、一人で家事を回すことになってしまった。それに罪悪感を感じているのかもしれない。
「それを言ったら、私のせい。何にも気づかないで、過ごしていたから。」
罪悪感の募った控えめな声で美愛がぽそりと返した。
「これから、洗濯とか、掃除とか、手伝える範囲でやってみる。」
そう決心したように声に出した。
「美愛前より出来るようになってたし、きっと出来るようになる。」
「うん!勇さん、ありがとう。」
人懐っこい笑顔を向ける美愛の頭をポンっと撫でる。前よりも高い位置にある頭は少し撫でづらかった。
お盆休み最後まで殆どを柊家で過ごした。そうして、帰る日となった。美愛はまるで前に戻ったように駄々を捏ねていたが、冬もまた来るといって宥めると、渋々握り締めていた俺の服から手を離した。
「響ちゃん、元気でね。勉強も頑張るのよ。」
「うん、母さんも。」
千佳子さんも柊も離れ難そうにしていた。慎介さんは何も言わなかったが、どこかソワソワしているのを見ると、矢張り寂しいのだろう。
「あっという間だったね。」
「ああ。」
電車に揺られながらどこか浮わついた気持ちで二人でそんな会話を交わした。
「…そう言えば、父さんと何話してたの?」
心臓が嫌な音を立てた。
「聞いていたのか?」
「?いや、全然。」
「…そうか。」
柊が聞くにしては苦痛な話題だった。いくら九渡高校では、ゲイカップルの成立が多発しようと、外に出れば、結局は男女の交際が推奨される。彼が今まで男を好きになった事しかないのかどうかは知らないが、聞いてしまっていては、あの仲の良い兄妹の間にも亀裂が入るかもしれない、そう思った。
「何でもない事だ。学校での柊の事とかを聞かれた。」
嘘を付くのは、いけない。けれど、この時だけはつかなくてはいけないと思った。彼がこれ以上、心を閉ざさないように。
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