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第十五話 腹黒ナルシスト
新学期が始まった。始まったところだと言うのに、今、ホームルームでは既に体育祭の事について話されていた。いつもは、学級委員長の金井と、もう一人、確か真田とかいう奴が進行をしているが、今回は如何にも運動の出来そうな男子二人が黒板前にいた。恐らく、体育委員なのだろう。
「勇、種目何にする?」
三回目の席替えで席が前後になった柊に後ろから声を掛けられた。
種目は五十メートル走、二人三脚、四百メートルリレー、障害物競走、騎馬戦に、九渡名物(らしい)解いたモン勝ち。解いたモン勝ちは、数学の問題を解く速さを競う競技でいつから始まったのか、誰が提案したのか分からないが、この学校だけの特殊種目らしい(多分)。
「解いたモン勝ち…がマシかもしれない。」
「勇なら一位絶対取れるね。」
「柊はどうするんだ。」
「んー、取り敢えず余ったものでいいかな、俺は。」
運動の全く出来ない俺に対し、柊は中々運動神経の良い男だった。部活に入っていないのに、足が速く、中学の頃は、何度も陸上部に誘われていた。
「希望ある人、前に名前書いてってー。」
体育委員の一人が教壇でそう叫んだ。
その声を合図にぞろぞろと人が立ち、先程より騒がしい雰囲気になってしまった。
「あ、まだ空いてるね、解いたモン勝ち。」
「行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
そうして、教壇に近づき、チョークを取ろうとしたとき、誰かの手とぶつかった。
「すみませ…って、小野寺じゃないか。」
同じクラスなのだから、そりゃあこういう事もある筈なのに、金井は動揺したように、俺の名前を口にした。何故だろう、そう思って見続けていたら、金井は逃げるように目を逸らした。そして、態とらしく、眼鏡を触る。
「…種目、解いたモン勝ちにするのか?」
「あぁ、金井もか?」
「計算は得意な方だからな。あ、名前先いいぞ。」
差し出された白いチョークを受け取って、苗字を黒板に書く。周りが騒がしいからか、いつもより黒板を叩くチョークの音は気にならなかった。
「小野寺、字も上手いんだな。」
「そうか?」
「俺は女みたいな字だとよく揶揄されるから、そう達筆なのが羨ましい。」
手渡したチョークで金井も苗字だけを黒板に記入した。確かに女子が書くような丸く小さい字だった。
「後、希望がある人はいませんかぁ?…じゃあ、えーっと。」
手慣れていない体育委員の進行は何となく緩い。体育委員A(黒板前で立っている方)は黒板を見回すと、いくつかに印を付けていった。
「リレーが後二人、騎馬戦が後一人、五十メートル走があと三人、二人三脚もあと一ペア…。まだ名前書いてない人優先で、選んで下さい。丸した所はもうこれで確定なので、お願いします。後、兼種目もアリなので、他にやりたいものがあれば、それでお願いします。」
「では、まだ名前を書いてない人からお願いしまーす。」
何やら紙に書いていた体育委員Bが顔を上げて、そう叫んだ。立ち上がったのは、柊、名前の知らないクラスメイト二人だった。
「えーっと、じゃあここからは兼種目で、えーっと…騎馬戦が後一人で五十メートル走があと二人で、二人三脚が一ペアです。…どうする?」
「じゃあ、種目名言ってくので、希望があれば手ぇ挙げてください。まず、騎馬戦…じゃなくて、五十メートル走やりたい人〜?」
クラス内で一人だけ手が挙がった。そのクラスメイトは、え〜、俺だけ??とか何とか言いながら、周りのやつと笑いあっている。
「あ、じゃあ俺やるよ。」
「柊、助かる!」
そうして、体育委員Aは喜々として二人の名前を黒板に書いていった。
「後、二人三脚やりたい人と、騎馬戦四人で一グループなんだけど、今三人しかいないところあるから、だれかおねがいしまーす。」
体育委員Bがゆるーい感じでそう言った。俺は多種目に全く出るつもりがない為、早く終わらないかな、とぼうっと前を見ていた。
「なぁ、俺、二人三脚やろうと思うんだけど、小野寺一緒にやんない?」
程よく焼けた肌と耳にかからない程度の長さの黒髪の男子がいきなり話しかけて来た。こいつが真田という奴だ。周りの奴らもそこら辺で立ち歩いたりしているので、出歩いていてもあまり気にならなかった。
何で、俺が…と面倒臭く感じつつ、手っ取り早い断り方を思い付いて、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「身長差と運動神経の差がある。これで二人三脚をするのは、難しいんじゃないか?」
「確かになぁ、じゃあさ、騎馬戦チーム小野寺入んない?上に乗る奴決まってなくてさ、小野寺なら軽々乗れそうだし。」
「いや、俺は…。」
「小野寺が騎馬戦やんの?」
断ろうとした時、体育委員Bからの横槍が入った。真田はニヤリと笑った、気がした。
「な、ホームルーム長引くのもあれだし、お願い。」
確かに、これ以上長引かせると、明日以降もまた話し合わなければいけなくなる。それは面倒臭い。
「…分かった。」
「ありがとう!…騎馬戦で小野寺入るってー!」
「りょーかい。」
そこからは体育委員の二人が二人三脚をやる事になって、やっとホームルームは終了した。
帰る準備をしている時、柊から話し掛けられた。
「勇、良かったの?」
「良くはないが、仕方無い。」
「まぁ、勇が納得してるなら何も言わないけど、…真田君には気をつけてね。」
「?分かった。」
何に気をつけるのか、分からなかったが、柊の真剣な表情に押されて、頷いてしまった。
この時、俺はもう少し意味を考えるべきだったのかもしれない。
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