第十五話 腹黒ナルシスト

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「小野寺。」 放課後。帰ろうとしたその時に声を掛けられた。真面目そうな堅苦しい表情の彼、金井は何やら荷物を持っていた。 「すまない。委員会の仕事があるのだが、これを運ぶ様に頼まれてしまって…、その、お願いしても良いだろうか?」 突然の申し出に、俺は少し驚いた。 それが表情に出ていのか、金井は顔を青くしてしまった。 「あ、いや!こんな事、人に頼むべきでは無いな。すまない。忘れてく…」 「手伝う。それをどこに運べば良いんだ?」 「い、良いのか?…迷う程の距離では無いと思うが、一応言っておくと、教室を出て右、その階段から1階だけ下に降りて、左に行くと第二準備室がある。そこにこれを置いて欲しい。出来れば、鍵も頼みたいのだが…。」 「分かった。鍵はどうすればいい?」 「1階まで降りれば、すぐ右に職員室がある。そこで榎本先生に渡してくれれば大丈夫だ。」 「分かった。」 「じゃあ、宜しく頼むぞ。」 「あぁ。」 手を振る金井に手を振り返して、その姿が見えなくなった後、俺は席を立った。 「右。階段。左。」 金井が教えてくれた手順通りに進むと、確かに『第二準備室』と書かれたプレートのある教室が見つかった。ずるりと落ちてくるダンボール箱を床に置き、扉を開けようとした。 「あ゙ー、なんで俺がこんなこと…。」 室内から何やら不満気な声が聞こえた。どうやら、頼まれたのは金井だけでは無かったようである。 しかし、聞き覚えのある声である。 まさか、そう思って戸を引いた。それは思ったよりも音が鳴り、ガラリとした音の後、中の人物と目が合った。 彼は目を丸くしてこちらを見ていた。 「お、小野寺?もしかして、」 「あぁ、聞いてた。真田も手伝いか?」 「え、あー…まぁ。」 「そうか。」 妙な反応をする彼を無視して、思い荷物を同じ様なダンボール箱の隣に置いた。 真田は依然として動かない。 仕方ない、そう思って声を掛けた。 「俺が鍵を閉めるから、部屋を…」 俺が言い終わらない内に、彼は後ろにあったロッカーを壁に鈍い音を立てて、手をついた。そして、俺を見下ろす。 「この事、他の奴に言うんじゃねえぞ…。」 あの明るい笑顔を見せる顔もこう凄まれると流石に迫力があった。しかし、こう見ると、睨むだけであの人でも殺してそうな形相の仁山は本当に目付きが悪いのだなぁと、しみじみ思う。笑った顔は眉が下がり、イメージが一変するのも、中々印象的だ。 「言わない。言っても俺に利益がある訳では無いしな。…取り敢えず、鍵を閉めたい。ここを出よう。」 「…あ、あぁ。」 真田は間の抜けた、困惑気味の表情を浮かべており、そんなに変な事を言っただろうかと、不思議に思った。 漸く、鍵を閉め、さて、職員室に向かおうと方向を変えると、目の前に真田が立っていた。 「…小野寺、俺はお前の事を監視する。少しでも、口にする様な事があったら…、その時はお前を苦しめてやる。」 いや、だから、そんな利益の無いことしない、ともう一度言おうかと思ったが、この疑心ばかりの募った男には何度言っても無駄そうだ。 「そうか、宜しく。」 「………、言おうか迷ったんだが、職員室は逆だ。」 片方の手を動かして、何秒か考え込む。 「あぁ、こっちが右か。」 真田の監視対象となって、数秒。いきなり、心配そうな顔をされてしまった。
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