第十五話 腹黒ナルシスト

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ニコニコとしている真田と引き攣りつつある笑みを浮かべている柊に俺は挟まれていた。 「さ、真田君。勇と仲良くなったんだ?」 「まぁ。騎馬戦でまえ一緒に練習してから、つい、な。ごめん、迷惑だったかな?」 「…いや、勇がいいなら別に……。」 昨日の宣言通り、今日は一日中、真田が付き纏っていた。移動教室、昼休み、そして放課後。柊は間が悪く、先生に呼ばれたり、他のクラスメイトに呼ばれたりしていて、放課後、今この時間以外は別行動だった。 帰りまで着いてくる気である真田に柊がこの顔なのは、真田が苦手なのか? いや、また、もしかしたら猪塚の…。 「真田〜、一緒に帰ろ…って、柊達と帰んの?」 「そのつもり。」 「え〜、俺今日一人になっちゃうんだけど…。」 「だってさ、真田君、彼と帰りなよ。」 真田とその友人のやり取りを見ていた柊はほっとしたようにそう言った。それに真田は顔を顰めた。 「な、小野寺、こいつも一緒じゃ駄目かな?」 「俺は別に…。」 「え、いいの?てか、真田、小野寺と仲良かったっけ?」 「最近な。」 「へぇー、小野寺、小野寺、俺、西村!宜しくな。」 「宜しく。」 真田と関わり始めてから、こう騒がしい奴が増えてきた気がする。今日も一緒に居れば、何かと声を掛けられた。その度に、俺が隣にいる事に驚かれる。なので、このやり取りも、少し辟易していた。そして、それは真田も同じ様である。 そうして、賑やかに帰路を辿った。西村は中々デリカシーの無いやつで、小野寺ちっちぇ〜、とか肌白っ、女みたい、とかカラカラ笑いながら俺の頭をぐしゃぐしゃとする。真田の友人はこんなのばっかなのだろうか。 「勇、真田君と仲良いの?」 寮の部屋に帰って来てから、柊は開口一番にそう言った。顔に笑みは無かった。そういえば、帰る時も一言も発していなかった。 「いや、そんなことは無い。」 「……そっか。ちょっと俺、飲み物買ってくるね。」 作り上げた笑みを浮かべた後、柊は部屋を直ぐに出ていってしまった。 なにか傷つけてしまっただろうか。矢張り、猪塚が関係しているからなのだろうか。猪塚が関係している事柄に関して、柊は慎重で感情的で、悲観的だ。 折角、猪塚と離れて、柊の話も保留にして、日常が戻ってきたというのに、また苦しい思いをしなくてはいけないのだろうか。痛いのも、苦しいのも、楽じゃない事なんて嫌だ。 「……また、離れるのか。」 ぽつりと自分の口から出た言葉に驚き、焦り、俺は口を覆った。まるでその事を寂しがっているような、口振りだったからだ。 俺には柊がいればいい。今までもこれからも、変わらずに、変わらずにこのままでいられれば、良いのだ。 でも、何故だろうか、それが少し息苦しいと感じてしまうのは。
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