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授業の終わりを告げるチャイムが鳴った後、真田が俺の首元に腕を回してきた。柊の顔が顰められる。
「小野寺〜、飯一緒に食おー。」
「友人は良いのか?」
真田の向こうでわいわいと話しているグループを一瞥する。
「良いんだよ。ーー柊〜、小野寺借りるぞ。」
「え、ちょ。」
そのまま強引に椅子から体を引き剥がされる。俺は慌てて弁当を手に取って、真田に引っ張られていった。
「やっぱ、あの教師苦手だわ。話し方とか。」
「杉沢達には、そんな事ないと言っていなかったか?」
「そんなん嘘嘘。それに俺この顔でいい子な性格だから、あの先生に絡まれる事もねぇし、だったらこのまま良い子でいた方がいいだろ。」
そう言って、コロッケパンを口に頬張った。
屋上前の階段に腰掛けて、こうやって真田と昼を一緒に食べるのも何度目だろうか。真田の友人には絡まれるし、柊は寮の部屋に帰る度に俺の傍を離れないし(最近に至っては、俺の背中に張り付いている)、真田は何やら最近楽しげだし。
「……真田、まだ俺の事を監視しているのか?」
「え!?……ま、まぁ。……監視、…そうだよな…。」
ブツブツと何かを呟いている真田から目を逸らした。
「そう言えば、何故その性格を隠してるんだ。」
辺りに静けさが戻った。どういう事かと、思って真田の方を見ると、暗い表情をした真田がいた。
矢張り、まだ聞くには早かったか、そう後悔していたが、暫くして真田は口を開いた。
「……こんな性格、誰も好きやしねぇからだよ。」
弱々しく吐いた言葉は、衝撃的で儚いものだった。それが、俺には可哀想に思えて、俺は彼の頭をそっと撫でた。すると、肩がびくりと揺らされる。それは子供のように脆く思えた。
「俺は、別に嫌いじゃない。」
それを言ったら、俺の方が好かれることない性格だ。愛想は無いし、他人に興味の持てない、欠陥した人間。でも、柊が受け入れてくれて、支えてくれて、今の今まで力を抜いて生きていけた。だから、俺は彼を優先しなければいけないと思ったし、彼に何かしてあげたいと思った。
彼のお陰で無知な俺は色んなことを知れたし、こうやって誰かを慰めたい時に慰める方法も知った。
「……でも、俺性格悪いから。」
「そうか?案外そういうものじゃないのか?誰だって、嫌いな人も、苦手な人もいる。愚痴だって零したくなる。確かに言い過ぎは良くないかもしれない。だけれど、溜めておくのも、きっと辛い。」
我慢するのは苦しい。楽じゃないし、フェアじゃない。それはきっと誰だって同じだと思う。柊だって、一緒だ。だから。
「……真田、お前の友人なら否定したりなんかしない。……だから、俺にはもう関わらないで欲しい。」
「はぁ!?何で…、」
泣きそうなくらい歪んだ瞳から目を逸らす。
「…柊を傷付けたくない。」
「柊……あぁ、そういう事か。」
冷めた声色が聞こえた。
「お前、柊と恋人なのか?」
仁山からも聞かれた言葉に俺は驚く。何故、そんな風に見えるのか。
「……違う。本当に。止めてくれ。」
柊の告白が頭に過ぎる。その答えを先延ばしにしている自分も思い出す。何度消しても、消しても、忘れようとしても、ちょっとした事で蘇ってくるその記憶が俺の首を絞める。
「ふーん…。じゃ、おかしいんじゃない?付かず離れずだし、関わる人間も制限するなんてさ。」
「……それは、俺が一人で、柊は昔から色々してくれて、柊が大切で…。」
「だから、柊の為に俺との関わりを犠牲にすんの?そんなに俺との時間、嫌だった?」
悲しそうに微笑んだ真田がまた可哀想に思えた。そして、その顔をさせてるのが自分だと思うと、それはとても嫌だと思った。
「違う、けど、柊が嫌がる事はしたくない…。」
柊は家族より大切な友人で、俺の拠り所で、夢に出てくる彼の…。
「…分かったよ。だから、そんな顔すんなって。」
今度は、俺が頭を撫でられてしまった。金井も柊も、過去に誰かにも。割と雑な撫で方だったけれど、それよりも、身勝手なお願いを呑んでくれたことに俺は安心した。
「ありがとう。」
これで、柊は安心してくれるだろうか。悲しい顔はしないだろうか。あの顔を見る度、夢に出てくる響介が浮かぶのだ。それは、罪悪感と共に。
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