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「ま、これは不可抗力だよな?」
「……。」
週二日の体育の時間。その時間に行われる体育祭練習。そして、俺と同じ競技。
真田は得意気にニヤリと笑った。
昨日、もう関わるなと彼に言い、彼はそれで良いと了承してくれた、が、しかし、体育祭練習がある限り、彼と関わらないということは、到底無理だった。
柊に、もう大丈夫だと伝えてしまったのに。そして、大層嬉しそうな顔をされたのに。
俺は溜息をついた。
「ほら、小野寺行こうぜ。」
嬉しそうに笑う真田に呆れた。行き場所が違うから柊とは一緒に行けない。そんな事したら、俺が迷う。
教室で一人佇んでいた柊と目が合う。悪い気がして、目を逸らし、真田の後を追った。
「柊、これじゃ動けない。」
昨日は嬉しそうに顔を綻ばせていたというのに、今は俺の肩に顔を埋め、俺の体を抱き締めていた。
宥めるように彼の頭を撫でた。まるで、駄々を捏ねている子供のようだったから。
「……真田も猪塚と関係している人物なのか?」
「…………うん。」
「猪塚は、あれだが、真田は悪いやつじゃないと思う。仁山も金井も結局大丈夫だったじゃないか。」
柊が勢いよく顔を上げた。その顔は悲しみに呑まれていて、どうすれば良いのかと思考を巡らすが、結局何も出来ず、言えずじまいの俺がいた。
「…そういう問題じゃないんだよ。」
柊が苛ついた様に小さく低く呟いた。余計な事を言っしまったのだと知る。
そして、俺は思い切り押し倒された。
背中が打ち付けられ、少しだけ胃と肺が苦しかった。彼は俯いたまま、強く俺の手首を締め付けていた。
「柊…?」
「勇、告白の返事、してよ。」
心臓が鈍く動き始める。背中を打ち付けた時よりも苦しさを感じた。
「柊、手、離せ…」
「そしたら、諦めるから。はっきり言って。お願い。」
懇願と共に、手首に込められる力は増していた。
痛いのも、苦しいのも嫌いだ。柊がこんな顔してるのも、こんな顔させてる俺も、嫌いだ。
だけど……。
「……それは、い、やだ。」
何故、変化を求めるのか。何故、このままじゃ駄目なのか。分かっているけれど、理解出来ないし、したくない。仁山も、猪塚も、長谷部も、柊も。俺は楽に息をしたいだけなのに。
『好き』って何だよ。俺のどこをその言葉で当て嵌めるんだ。
昔の柊は優しい友人で、気を遣ってくれて、一緒に居ると楽で、話すのが楽しくて。
でも今は、告白の話をいつされるかって考えると億劫だし、どうすれば、柊が笑顔でいてくれるかって考えてばかりだし、息が詰まる。楽じゃない。
どうすれば、柊が元に戻るかと、また考えて、どうすれば、逃げられるかって、また考えて、苦しくて、また目をつぶって、耳を塞いで、忘れてしまいたい、そう思った。
「……騎馬戦、やめる。他の奴とも話さない。だから、まだ友人のままでいてくれ。変わらないでいてくれ。」
柊の望むことを言ったはずなのに、彼は酷く悲痛な表情をしていた。罪悪感に蝕まれた様な、そんな顔だった。
「……ごめん。」
夢の中で何度も繰り返される響介の声とまるで一緒だった。
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