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猪塚の攻略者対象者達、ゲーム内で勇を苦しめた人物、彼らと勇の間の歪みを無くし、勇の高校生活を平和なものにするというのが、俺の目的だったはずなのに。
最近、彼らだけではなく、クラスメイトとも仲を深めつつある勇に対し、寂しさを覚えていた自分がいた。
勇に関わってくる者に対しての嫉妬、それを必死に抑えようとした。何故か真田が勇に取り付くようになってからは、このドス黒い感情を耐え忍ぶ日々だった。そして、その真田の行動がゲーム内で猪塚にしていた行動と似ていて、それがまた俺を焦らせた。
金井の事もよく分からない。友人に飢えていた彼は、同じ委員会で猪塚と仲を深める筈なのに、猪塚が違う委員会に入っていたお陰で、金井は勇と仲を深めてしまう結果になってしまった。
幸せになって欲しい、そう願いながら、周りと仲良くなる勇を縛り付けたくなる。その幸せの中に恋人になった俺は勇の中にいないと気付いていながら。
『……騎馬戦、やめる。他の奴とも話さない。だから、まだ友人のままでいてくれ。変わらないでいてくれ。』
悲痛な表情を浮かべた勇にそう懇願された。
その言葉を聞いた瞬間、俺は気付いてしまった。独りにしない為に、俺はここにいるのに、俺が勇の孤立を願ってしまっているのだと。そして、それはあの残酷な攻略者対象者達と同じ事なのだと。
勇の幸せを願っていると嘯きながら、本当は自分の幸せしか願っていない。勇の中で柊という存在が特別、恋人になるという幸せを。
『馬鹿だね。』
時偶姿を見せる猪塚はそんな事を言って、俺を嘲笑していた。その時は、まるで何のことか知りもしていなかった。知ろうとも、していなかった。
『勇に金輪際関わらないで欲しい。君のせいで勇が不幸になるから。』
勇に委員会があると、嘘をついて、猪塚と会ったある日、俺はそう言った。
猪塚は呆れたように軽蔑した様に俺を見ていて、それが何処か憐れむようであったのも、その表情に苛ついてしまったから、よく覚えていた。
『ふーん。じゃあ、君と居ることが勇君の幸せなんだ。』
そう言い残して去っていった彼に、俺は嫌悪感を覚えた。しかし、その言葉も今なら鈍く俺の中に響く。
今、この世界で彼を苦しめているのは、他でもなく俺なのだから。猪塚は、何かを知っている様だが、勇に干渉している様子は無いし、仁山、金井、真田、長谷部、波多野も勇を苦しめてなんかいない。
握り締めた細い手首の痣を、罪滅ぼしというのもおかしいが、手当てしようとした時、振り払われてしまった。怖がられてしまっただろうか、嫌われてしまっただろうか、もう友人とも見てくれないだろうか、悔やんでも悔やみきれない程、俺は大変な事をしてしまった。いや、し続けてしまった。
あぁ、そういえば最近、勇の笑顔なんて見ることがなかったな、そんな事を考えて、また胸が苦しくなった。
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