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「真田、すまない。俺は騎馬戦には出れない。急なのだが、他の奴に頼んで欲しい。」
昨日の一件で、結局俺は柊を取ることを選んだ。そのことを告げた時、柊に悲しい顔をさせてしまったが、こうすれば、きっと柊の晴れやかな笑顔が見れるだろう。
「え、どうした?怪我?病気?」
「俺は健康だ。だが、騎馬戦には出れない。」
「はぁ?どういう……もしかして、また柊の奴が…。」
「いや、俺が選択したんだ。迷惑を掛ける、すまない。」
この瞬間すらも、心臓が煩い。頭の奥が痛む。手首がひりつく。
早々とここを去ろうと、重い足を彼の居ない方に向ける。
その時、ぐっと手首を引っ張られた。俺は痛みで顔を顰めた。
「お前が、お前が溜めるなって言ったんだろ。我慢しない術を教えたんだろ。それを教えた責任くらい残せよ。」
必死の様子で更に手首に力が込められる。痛い、苦しい、嫌だ。手を振り離したいが、彼の力に叶うはずもなく、腕を動かそうとしても、そこが痛く、俺は戸惑った。
「真田っ、一度手を離…」
「そう言って、また俺から離れようてするんだろ?そんなに柊が大事か?お前を独りにさせようとしてる彼奴が。」
昨日俺に乗りかかってきた柊を思い出した。逃げようとしても、逃げられない。嫌な、気持ち悪い、そんな気分。
「まだここに居るから、だから、一回離してくれ…頼む。」
そう懇願すると、彼は慌てたように手を離した。上から羽織っていたカーディガンと服が擦れてジンジンとした痛みと、痣のズキズキとした痛みが同時にくる。それを隠すように俺は掴まれていた手に片手をそっと添えた。
「…そう言えば、気になってたんだけど、お前何で今日はカーディガン着てるの?昨日は来てなかったじゃん。それに今日、昨日より暑いだろ。」
「……別にいいだろ。」
「それにお前、手首さっきから、庇ってるみたいだし……、」
心臓が煩い。これはバレてはいけないと思っていた。そしたら、きっと柊が悪者になってしまうから。まるで、彼が知っているこの世界の悪役みたいに。
走って逃げようか、最も的な理由を言って言いくるめようか、そう躊躇している間に腕を掴まれた。そして、思いっきり袖をたくし上げられる。
「お前、これ……。」
絶句した真田は、晒された俺の手首と俺の顔を交互に見た。とても目が合わせられなくて、俺は俯く。
「……柊にやられたのか?」
俺は何も答えなかった。
真田はそれを肯定と受け取った様でみるみる顔に怒気が募っていった。その間も俺はどう言い訳しようかと考えるだけだった。
「お前、早く柊から離れた方がいいよ。大切だったとしても、その大切にいつかお前が悲惨な目に合わされるぞ。」
彼の言葉がつきりと俺の胸を刺す。それを俺は無視した。
「…柊の幸せが、俺の幸せだ。だから、もう関わらないでくれ。」
早くここから離れたかった。ガンガンとする、頭が痛い。辛いものは見ていたくない。早く、早く、ここから。
「じゃあ!じゃあ…柊が幸せになった後、お前に残ってるのは何なんだよ!お前は……」
真田の声が遠のいていった。先程まで続いていた頭の痛みさえも、もう煩わしさなどなかった。
急激に視界が暗くなり、世界が暗転した。
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